2011 Fiscal Year Annual Research Report
奈良朝文書の書体選択と中国受容―国家珍宝帳を中心として―
Project/Area Number |
09J40059
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Research Institution | Kyushu University |
Principal Investigator |
川上 貴子 九州大学, 大学院・人文科学研究院, 特別研究員(RPD)
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Keywords | 国家珍宝帳 / 奈良朝書 / 顔真卿 / 智永 / 欧陽詢 |
Research Abstract |
本研究は、奈良時代の日本が律令体制を整備する過程で、どのような書体が日本という国家を表象するにふさわしいのかという書体選択に関わる考察を研究観点に据え、奈良朝文書の書体を唐受容という観点から研究することを目的としている。 23年度は、奈良朝において中国書体が意識的に採用されたというこれまでの研究成果をもとに、国家珍宝帳(756)における中国書の受容の有り様を具体的に提示すべく、更なる精査を試みた。まず中国書との比較の対象を国家珍宝帳全体(679行)のうち、巻頭の願文(30行)のみとする根拠を、リスト部分、位署書部分、巻末願文部分と巻頭願文部分との書体比較によって示した。次に書体比較の利便性を考慮し、願文(419字)の各文字を部首別に分類し纏めた「国家珍宝帳文字一覧表(部首別)」を作成。この表を用いて、国家珍宝帳制作の際に、書体がどの程度意識的に書かれたのかを、同字80種(135字)を抽出して検証し、約86%が同書体であったという結果を得た。このように書体に統一性がみられることから、あるべき書体が意識的に採用されていたことが確認できた。国家珍宝帳に採用された中国の書体については、一昨年、玄宗期の新書体と王義之の行書体・草書体(智永・真草千字文を含む)が採用されていることを指摘したが、23年度ではより詳細なデータを得るため、奈良朝での受容が実際に確認できる欧陽詢の書を加えた7作品との比較検証を試み、国家珍宝帳と共通する文字(7作品で2289字)を各々の作品から抽出し、「国家珍宝帳文字一覧表(部首別)」に加え、新たに一覧表を作成した。
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Current Status of Research Progress |
Current Status of Research Progress
3: Progress in research has been slightly delayed.
Reason
23年度は書体比較の為の一覧表(「国家珍宝帳文字一覧表(部首別)」)作成に、膨大な時間を費やしてしまい、データ分析までには至らなかった。しかしより詳細なデータを得るためには、表作成は必要な作業であり、このデータそのものが、奈良朝書研究に寄与できるものと考える。
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Strategy for Future Research Activity |
今後は、「国家珍宝帳文字一覧表(部首別)」をもとに書体を分析し、データとして纏め、国家珍宝帳における中国書の受容のあり方を詳細に提示する。ただ膨大な資料であるため、さらに多くの時間を費やすことになるものと思われる。しかし国家珍宝帳は、国家最高の公的文書であり、この分析結果を提示できれば、それをベースに他の奈良朝書をより詳細に検証することが、今後は可能になるものと思われる。
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