2009 Fiscal Year Annual Research Report
「アメリカ都市文学」の形成:1865年から1945年のニューヨーク小説を中心に
Project/Area Number |
09J40184
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Research Institution | The University of Tokyo |
Principal Investigator |
渡邊 有希 The University of Tokyo, 大学院・人文社会系研究科, 特別研究員(RPD)
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Keywords | アメリカ・リアリズム小説 / 20世紀アメリカ文学 / ニューヨーク / アメリカ文化研究 / 文学における都市表象 / スティーブン・ミルハウザー |
Research Abstract |
平成21年度は、研究課題である「米都市文学」すなわち、19世紀後半から20世紀初頭の米国における近代都市の発展と個人の経験を主題としたリアリズム文学形成について研究した。近代ニューヨークの都市表象において建築、特に摩天楼が作り出した新しい空間が重要な主題になっていることを再確認し、その視点から現代文学、特に2001年の同時多発テロ事件の経験に焦点を当て調査した。 第一に、シオドア・ドライサーの作品におけるニューヨーク表象について、小説『シスター・キャリー』を中心として研究をまとめた。この作品でドライサーは一般的な「都市」ではなく、ニューヨークに固有の状況に注目していること、つまり作品の前半の舞台であるシカゴと差別化する形で、摩天楼の生み出す高さや移動の可能性を小説の重要な要素として利用していることを明らかにした。第二に、アイン・ランドの小説『水源』に着目した。この作品は、40年代ニューヨークの都市表象において非常に重要な作品であるが、文学的評価の対象になることがほとんどなかった。しかし、摩天楼と個人の関係をテーマとした当研究の文脈に置くことで、都市小説としての重要性が明らかになった。第三に、スティーブン・ミルハウザーの小説『マーティン・ドレスラーの夢』における都市空間の表象について、ブレット・イーストン・エリスの『アメリカン・サイコ』と比較しながら検討した。これらの作品は、共通してニューヨークの都市環境と個人の体験の有機的な関係を主題としており、当研究が提案する都市文学理解の文脈、特に世紀転換期のニューヨーク都市小説との連続性において考察するが必要であるという結論を得た。第四に、当該テーマの論理的発展として、2001年9月の同時多発テロにおけるワールド・トレード・センター崩壊の経験に対する文学的反応について、広く調査を行った。アート・スピーゲルマンのグラフィック・ノベル『消えたタワーの影の中で』の摩天楼表象を「変化と継続」というモチーフから整理しなおし、スピーゲルマンが行った世紀転換期の読み直しを評価する論文を起稿した。
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