2010 Fiscal Year Annual Research Report
キリシタン禁制の日本的特質-中国、朝鮮との比較を踏まえて-
Project/Area Number |
09J40188
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Research Institution | The University of Tokyo |
Principal Investigator |
清水 有子 東京大学, 史料編纂所, 特別研究員(RPD)
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Keywords | キリシタン史 / 対外交渉史 / 近世史 / 東アジア史 / 日本:中国:朝鮮 / 宗教史 |
Research Abstract |
16~17世紀の東アジア各国はいずれもキリスト教を否定する政策を採用したが、日本の禁教政策が何故中国、朝鮮よりも熾烈な排撃性を伴ったかを解明することが本研究の目的である。本年度はこの研究の一環として、豊臣政権による伴天連追放令(1587年)の発令要因を布教の実態面に着目して考察した。その手順は以下である。 第1に、「イエズス会日本年報」等の史料から1580年代~1650年代の日本の洗礼者数を抽出した先行研究のデータ(J. F. Schutte,'Introductio ad Historiam Societatis Jesu in Japonia', Roma, 1968, pp. 411-418)に、豊後、下、都各教区の洗礼者数の記載が部分的であること、数字の増減に関する分析が十分ではないこと等の問題点があると指摘した。第2に、第1の問題点を踏まえて、1580~1600年代の各教区の受洗者数や教会関連施設のデータを改めて上記史料から抽出し、新たな洗礼者数一覧表を作成した。第3に、第2で得た新たな数的データを、日本イエズス会士の布教報告書を参照しつつ分析した。その結果、16世紀末の日本におけるキリシタン布教の基本的形態は、キリシタン領主が主導する集団改宗、いわゆる「上からの布教」であったことを確認した。 かかる布教によって日本各地には同一の宗教で結ばれた「キリシタン宗国」が形成・拡大されつつあったが、この動向は本願寺法王国、本願寺領国体制と呼ばれるひとまとまりの自律的な宗教領域、体制を形成した同時期の一向宗の動きと極めて相似的である、伴天連追放令の法文からも窺えるように、豊臣秀吉政権はこういった自律的な動向を示す宗教勢力を体制内に組み入れる点に課題があり、キリシタンを邪教視するに至ったと考えられる。この研究の意義は、統治者のキリシタン政策を相対化し、キリスト教に対する社会的要請・実態を重視して禁教の現象を理解しようとする点にある。集団改宗が中国、朝鮮で統治者にいかなるインパクトを与えていたかの解明が次の課題となる。
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