Research Abstract |
最も重要な海洋汚染として,タンカー事故などによる重油汚染がある.本課題では,重油汚染が魚類感染症の発生にどのような影響を与えるのかを明らかにすることを目的とした.ヒラメにウイルス性出血性敗血症ウイルス(VHSV)を感染した後,重油暴露を行ったところ,3つの対照区(非感染・非暴露区,ウイルス感染区,重油暴露区)では斃死は認められなかったものの,複合ストレス区では,50%の斃死率が得られた.このことから,単独ストレスでは斃死を誘発しない濃度でも複合的なストレス下では,致死を誘発することが明らかにされた.その原因を明らかにするために,各区の心臓中のVHSV力価を調べたところ,複合ストレス区のウイルス力価は,10^5~10^<8.25>のTCID_<50>でウイルス感染区10^3~10^<6.8>TCID_<50>よりも高い傾向にあった.さらに,斃死した魚の大部分がウイルス性出血性敗血症(VHS)の症状を呈していたことから,斃死の原因は,VHSであることが示唆された.複合ストレス区の斃死の原因を解明するためにマイクロアレイを行ったところ,ウイルス感染区および複合ストレス区では,ウイルス感染に対する防御反応として,アポトーシス関連遺伝子群の発現量が他の2区よりも有意に高かった.しかしながら,興味深いことに,複合ストレス区では,ウイルス区と比較して,アポトーシス関連遺伝子が有意に低かった.特に,NK細胞がウイルス感染細胞にアポトーシスを誘導するために産生する酵素であるグランザイムおよびパーフォリンなどの重要な遺伝子の発現量が低下していた.ヒラメの斃死率,心臓中のウイルス力価およびマイクロアレイの結果を総合すると,ウイルス感染魚に重油が暴露されるとアポトーシス誘導活性が低下し,魚体内でウイルスの複製が盛んになることで,VHSが発症し,斃死することが強く示唆された.
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