2000 Fiscal Year Annual Research Report
ドイツにおける児童・青少年の保護育成政策-20世紀前半を中心に-
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10610269
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Research Institution | University of Tsukuba |
Principal Investigator |
畔上 泰治 筑波大学, 現代語・現代文化学系, 助教授 (70184174)
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Keywords | 少年保護 / 少年強制収容所 / モーリンゲン / ウッカーマルク |
Research Abstract |
1.本年度においては,「第三帝国」期における「保護教育」の実態を中心に研究し、研究報告書(約200頁)の作成を中心に作業を進めた。 2.ナチ政権下で「保護教育」の名の下に行なわれた、「非社会的」少年・少女に対する取り組みは、「問題のある」少年・少女を教育・福祉施設から追放し、強制的に収容所に隔離することを中心に進められた。この時代の社会・福祉教育は、当該者自身にとっての福利・厚生という観点以上に、治安・警察的観点が前面に出されて行なわれた。「少年保護収容所」という名の下に、モーリンゲン及びウッカーマルクに少年強制収容所が造られた。そこでは、少年・少女たちに対して犯罪生物学的選別や遺伝状況に関する検査が行なわれ、「教育」という言葉の下に、過酷な労働が強いられていた。 3.ナチ政権下でのこうした手段には、既に伏線があった。ヴァイマル共和国時代から既に、取り分け世界恐慌による経済危機の中で、経済性・効率性の追求は社会・福祉教育にも及んでいた。教育理念・方法への反省には触れることなく、それまでのこの分野における大きな成果の欠如の原因は、「問題のある」少年・少女自身へと還元された。彼らを強制的に施設に収容するための法整備を求める運動が進められていた。また他方において、ナチ時代のこの思想・方法は、戦後ドイツの少年政策の領域においても唱えられていた。ナチ政権下で大きな影響力を持っていた人間が、戦後もこの分野において活動しつづけていたのである。 4.ドイツの少年「保護」政策における連続性という観点からは、ナチ政権下での「強制保護」思想は、過去からの流れの中に位置付けられ、また、戦後も、部分的とはいえ、引き継がれて行く。ネオ・ナチ問題が深刻となっている現在、その対策として講じられる少年政策が、いかなる思想・理念に基づき講じられているのか、今後詳しく研究する必要がある。
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