1998 Fiscal Year Annual Research Report
幕末維新期の政治変革と「民政学」-『海南政典』と『芸藩通志』の分析-
Project/Area Number |
10610324
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Research Institution | Nagoya University |
Principal Investigator |
鈴木 祥二 名古屋大学, 文学部, 教授 (30127120)
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Keywords | 明治維新 / 土佐藩 / 安芸藩 / 海南政典 / 芸藩通志 / 民政学 / 地誌 / 統治技術 |
Research Abstract |
本研究では、土佐藩参政の吉田東洋が中心となって編纂した『海南政典』と安芸藩が化政期に編纂した『芸藩通志』を素材に、19世紀前中期に獲得された統治理念と技術・知識、及びその維新変革への影響を考察することを目指している。本年度は、両史料に関する基礎資料の確認と収集に力を注いだ。『海南政典』については、これまでの諸本以外に、国立国会図書館にも仙石家本と呼ばれる写本が存在することを今回新たに確認した。そしてすでに石尾芳久氏が著書『海南政典の研究』で翻刻した高知県立図書館本との比較検討を行う作業を進めた。また『芸藩通志』については、領内の町村が作成した「国郡志御用につき下調べ書出帳」が、広島県文書館所蔵の『波多野家文書』、『三上家文書』、『横山家文書』、『中野町役場文書』ほか、24にのぼる文書に残されていることを確認した。その中には書上帳の控のみならず、村での調査の実態(例えば「国郡志編賛-件緒用控帳」、「国郡志-件集会諸控」)や、調査に要した費用を記録した文書(例えば「国郡志相約メ候諸入用帳」、「国郡志相調諸入用仕出シ帳」)もあり、これまで未解明であった編纂事業の様相を再構成する手がかりを得た。さらに、幕末維新期の「民政」に関する文献をいくつかの資料館で確認した。中国において官吏の任務と規律を書いた『牧民忠告』、『牧民心鑑』の注釈書である、山縣禎『民政要論』、樋口好古『牧民忠告解』、鈴木雅之『民政要論』、平塚飄斎『牧民心鑑解』などである。これらは中国が生み出した官吏論が幕末期に研究されていたことを示すものであり、これらの文献の存在は維新変革への中国の影響を測定する鍵となるとの結論を得た。
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