1999 Fiscal Year Annual Research Report
平安時代の「起請」について-王朝貴族の腐敗防止法-
Project/Area Number |
10610328
|
Research Institution | Hiroshima University |
Principal Investigator |
下向井 龍彦 広島大学, 学校教育学部, 教授 (60171005)
|
Keywords | 起請 / 新制 / 藤原実資 / 『小右記』 / 内部規範 / 遵守誓約 |
Research Abstract |
従来、当事者相互の決意・合意・一味団結を神仏に誓約する中世の起請文に対して、奈良・平安時代の起請については、発議・禁制などとされ、中世の起請文とは異質なものと理解されてきた。藤原実資の日記『小右記』に散見する「起請」の記事を検討すると、公卿(右大臣・大中納言)・右近衛大将として実資が関わった摂関期宮廷社会の起請は、(1)近衛府起請、(2)殿上起請、(3)公卿起請、の三つに分類できる。(1)は儀式での精勤を求める天皇の譴責に対して、近衛府で勤務内規と賞罰を定め、近衛府官人・舎人全員で遵守誓約するものであり、(2)は天皇に日常的に奉仕する場である殿上における風紀・勤務状況について、やはり天皇の意向や要求・譴責を受けて、蔵人所別当が内規と罰則を定め、殿上人全体でその遵守を誓約するものであり、(3)はとくに受領の昇進・遷任(次の受領のポスト)を左右する成績判定を行う受領功過定において、財政監査上の重要チェック項目(たとえば賀茂斎院禊祭料の官済証明を受けているかどうか)について、絶対見逃さないということを、受領功過定に参加する公卿全員が遵守誓約するものである。いずれの起請も、自分たちで制定した内部規律を当事者自らが遵守することを誓約するものであることが明らかになった。また「起請宣旨」「起請官符」として布告されるから、起請そのものが「宣旨」「官符」と受け取られることになるが、それは起請にもとづく宣旨官符なのであって、起請=官符宣旨なのではない。起請とは、あくまでもその内規なり合意事項の遵守を誓約することであった。このような摂関期の起請の考察をとおして、摂関期の法=規範形成のありかたに新知見を提示し、とくに「公卿起請」には、受領人事の公平性を確保しようとする公卿集団の自己規制機能があったことを明らかにした。
|
Research Products
(3 results)
-
[Publications] 下向井龍彦: "天喜四年四月二十三日東大寺境内殺害事件をめぐる二つの問題"史人. 2. 58-67 (1998)
-
[Publications] 下向井龍彦: "平安時代の国家と海賊"『瀬戸内海の文化と環境』瀬戸内海環境保全協会. 14-38 (1999)
-
[Publications] 下向井龍彦: "律令軍制と国衙軍制"『戦いのシステムと対外戦略』東洋書林. 81-121 (1999)