Research Abstract |
全地球的な食糧供給の必要性と環境保全の高まりのなかで,漁業についても持続的開発を可能とする生態系保全型の生産技術が要求され,混獲投棄の減少と脱出魚・放流魚の生残性が重要研究項目として注目を浴びてきている。本研究は,漁具に遭遇しながら漁獲に至らなかった個体について,漁獲ストレスという観点から健常性,生残性を検討するものであり,最終目標としては各漁具種類別に生態系,生物多様性へのインパクトを指標化して,今後の資源管理方策に技術的指針を与えるものである。実際の研究内容としては釣り,刺網,定置網,トロールといった各漁具によって漁獲された個体について,水槽飼育による生残性の確認試験と,血中コルチゾール濃度の測定によるストレス判定を行った。同時に水槽実験による漁獲シミュレーションにより,操業実験では確認できない漁獲過程で与えられるストレスの詳細を確認した。漕ぎ刺網に関する研究では,操業実験で網目によるシロギスの魚体選択性を明らかにし,同時に「刺さり,絡み,袋罹り」の漁獲条件別に魚体損傷とストレス,生残性を確認した。この結果と水槽内でのシミュレーション実験をもとに,網目通過によって脱出した個体が受けるストレスは小さいが,揚網時の網糸による魚体圧迫が損傷の原因となり,船上に上げてからの放流では生残性が期待できないことを明らかにした。その結果,網目の拡大によって小型魚の脱出を増加させることは効果的であるが,船上放流は資源保全にとって無効と考えられた。また,マサバについて引縄と定置網による漁獲物のストレスを測定し,釣りによる漁獲物から直後に採血した結果を自然界でのストレスのコントロールとして利用できること,定置網による漁獲では網締め後の時間経過によってストレスが高まることを明らかにした。なお,定置網での漁獲物については,その後の1ヶ月にわたる長期飼育でストレスの変動を検討した。他に,トロールで漁獲されたカレイ類とマアジについて同様に水槽飼育による生残性とストレス測定を行ったが,対象個体が網内でどのようなストレスを受けたかの確認ができず,測定結果にばらつきがみられた。このことについて,水槽実験によって強制遊泳並びに網地への張り付きという漁獲シミュレーションを実施し,同時に,心電図測定並びに血中乳酸濃度の測定により,実験魚の疲労との関係を確認している。この結果として,強制遊泳そのものではなく,網地への張り付きによって筋肉疲労が顕著であり,またストレスも高まることが明らかになった。
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