1998 Fiscal Year Annual Research Report
『イソップ寓話』の受容を視座とする明清寓言の思想史的研究
Project/Area Number |
10710005
|
Research Institution | Osaka Kyoiku University |
Principal Investigator |
佐藤 一好 大阪教育大学, 教育学部, 助教授 (30196224)
|
Keywords | 『イソップ寓話』 / 陳春生 / 『東方伊朔』 / 中国寓言 |
Research Abstract |
平成10年度は、主として明清時代における中国人の「イソップ寓話」受容の代表的な事例として、光緒32年(1906)に上海美華書館から刊行された『東方伊朔』に対する基礎的考察を行った。同書については、すでに戈宝権氏が「羅伯〓編訳的(意拾喩言)及其他ー清代中訳伊索寓言史話」(『中国比較文学』1992年第1期、上海外語教育出版社)と題する論文の中で言及しているが、わずか数行の紹介に止まっており、『イソップ寓話』受容史上における同書の位置については考察されていない。しかし、私見によれば同書はいくつかの点で、中国における『イソップ寓話』受容の典型とも言うべき重要な性格を備えている。 詳細は『日本アジア言語文化研究』第6号(大阪教育大学日本アジア言語文化学会)に発表予定の拙稿「陳春生『東方伊朔』考」に譲るが、『東方伊朔』は先秦以米の伝統を有する中国の歴代寓言を『イソップ寓話』と結合させようとする編著であって、その特色は「知白子日」と始まる編者・陳春生の按語にこそ存している。陳春生は『イソップ寓話』に匹敵する中国寓言を多数紹介しつつ、各話に当時の世相を諷刺する評語を付しているのである。その中には、マテオ・リッチによる紹介以後、明清時代における『イソップ寓話』が絶えずキリスト教布教活動と密接な関連を持っていたことをうかがわせる注目すべき事例もある。例えば、『韓非子』和氏篇に見える有名な「和氏の璧」の話を紹介した後、陳春生は和氏の璧を「耶蘇教」に、和氏を「伝道的人」に見立て、キリスト教布教活動に対する当時の不当な迫害を批判している。 なお、戈氏によれば、陳春生にはこの『東方伊朔』と表裏をなす『イソップ寓話』の訳書すなわち『伊朔訳評』もあるというが、現在のところ未見であり、両者の関係については平成11年度の課題としたい。
|