1998 Fiscal Year Annual Research Report
カンディンスキーの作品におけるキュビスムの造形的関与
Project/Area Number |
10710018
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Research Institution | Waseda University |
Principal Investigator |
真野 宏子 早稲田大学, 文学部, 助手 (40298120)
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Keywords | 抽象絵画 / キュビスム / カンディンスキー / ピカソ |
Research Abstract |
これまでにも同時代の前衛画家たちに与えたキュビスム影響は多くの研究者によって明らかにされ、カンディンスキーと親しい画家たちとキュビスムの関係も少なからず論じられている。一方、カンディンスキーとキュビスムの関係については僅かにその可能性を示唆した言及があるのみで、具体的な論考に欠けるばかりか、むしろ否定的な意見が目立っている。カンディンスキーを巡る厖大な研究は、画家の「抽象絵画」成立期の作品を中心に、画面から具象的なモティーフを読み取り、その起源を遡って意味を探り、作品の主題、 精神的背景の考察に力が注がれてきた点に特色があるように思われる。本研究の目的は、そうした方法から見落とされてきた造形上の問題を扱い、従来の論考の弱点に言及するとともに、カンディンスキーの作品が当時の美術運動と複雑に絡み合いながら展開、意味レヴェルでは質の異なるキュビスム作品と同時並行的な類似現象が見られるのみならず、実は造形的に密接な関係にあることを解明することにある。今年度はカンディンスキーと主にピカソを巡るドキュメント調査に基づき、第一次世界大戦前の二人の作品について比較・対照し、分析を行った。抽象絵画のあり方を模索中のカンディンスキーにとっての命題は、画面から対象を排除することである。元の形がわからないまでに対象を解体し、パッサージュを使って画面を均一化するキュビスムの手法は革新的であり、カンディンスキーもピカソを特に評価した。カンディンスキーの画面でもパッサージュ、対象の溶解という現象が見られるようになり、画面も均一化される。またキュビスムの平面性と立体性の共存する画面は結果的に対象を中央に纏め、四隅に余白を生じる構成となるが、これもカンディンスキーの作品に取り入れられ、枠構造という生涯の特徴に結びついた。多くの関連資料も彼とキュビスムの繋がりを裏付け、キュビスムからの寄与が検証された。
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