1998 Fiscal Year Annual Research Report
スピン密度波のダイナミクスに対する磁性不純物の効果
Project/Area Number |
10740183
|
Research Institution | The Institute of Physical and Chemical Research |
Principal Investigator |
山口 智弘 理化学研究所, 磁性研究室, 基礎科学特別研究員 (80300903)
|
Keywords | スピン密度波 / 磁性不純物 / 密度波のダイナミクス / 磁化過程 / 電子スピン共鳴 / 比熱 |
Research Abstract |
平成10年度は磁性不純物としてFeCl_4イオンを含んだ(TMTSF)_2AsF_6試料を作製し、磁気的性質の研究を行った。試料作製ではFeCl_4イオンの濃度を系統的に変えて電解を行い、20%以下の濃度で十分な大きさの結晶が得られた。これらの試料についてスピン密度波(SDW)相内で磁化測定を行った。純粋な試料との磁化の差は鉄スピンによる磁化と考えられ 、次のような特徴をもつことが明らかとなった。温度依存性はCurie-Weiss則にしたがい、Curie定数は試料作製時の鉄の濃度の増加とともにほぼ単調に増加する。鉄が低スピン状態であると仮定してCurie定数から見積もった鉄の濃度は、試料作製時より非常に小さいが、組成分析の結果とよく一致する。このことから鉄イオンは強い結晶場中にあり、低スピン状態をとっていると考えられる。磁化曲線は低磁場側から非線型になり飽和する傾向を示す。この曲線は、鉄スピンのみを考えた分子場近似や、反強磁性格子との相互作用のみを考えたモデルでは説明できない。磁化測定に加えて、鉄のスピン状態を調べるため行った電子スピン共鳴実験で、金属相(15K)で鉄のスピンによるものと思われる信号が観測された。g値は異方的であり、鉄が低スピン状態にあることを示唆する結果である。また本年度はこれと平行して本研究の舞台であるSDW相の内部構造に関する研究も行った。この構造の磁場中での振舞を探るため、純粋な(TMTSF)_2AsF_6の比熱を測定した。比熱の温度依存性には3-4K付近で特徴的な振舞が見られるが温度は磁場にはほとんど依存しない。この温度が相転移に対応しているのなら、転移温度には大きな磁場依存性はない。比熱の磁場依存性には2つの磁場でピークが現れる。低磁場側のピークの位置は磁気抵抗や磁化率に異常な振舞が現れる磁場と一致しており、同じメカニズムに起因する現象と考えられる。
|
Research Products
(1 results)