Research Abstract |
前年度に引き続き,特に原典資料を収集し,これまでの検討内容との比較検討を行った. 特に入手困難であった1910年代出版の原典図書が入手できた. 今年度は,アヴァンギャルドの芸術家グループが,INKHUK内での議論を通して,ロシア構成主義の基本命題を確定していった過程について特に重点的に検討を行った.考察の結果,ファクトゥーラの概念は当初,芸術家の作品が,二次元から三次元の立体へと移行していく過程において,素材の扱い,表現の手法を意味する最も基本的な概念の一つとして捉えられていたことがよりはっきりとした.しかしながら,彼らの主眼が,芸術家の作品をいかに実際の生産へと結びつけるかということに発展していく過程で,アレクセイ・ガンの主張と,ロトチェンコらの主張とに大きな隔たりができてきた.特にガンは,素材をいかに構成するかということを考えると,ファクトゥーラの概念は,最も重要であり,この概念なしには,構成もテクトニカも存在し得ないと主張した.これに対して,ロトチェンコらは,ファクトゥーラは,二次元の絵画に関する概念として認識されてきたものであり,新しい三次元の生産にはふさわしい言葉ではなく,その内容はテクトニカに包含させるべきであるとした.これまで芸術家の作品とともに包含する内容を展開させてきたファクトゥーラの概念は,テクトニカに取って代わられるというロトチェンコらの主張は,他のメンバーにも受け入れられた.この考察の結果,構成主義第一ワーキンググループで,ファクトゥーラという言葉そのものが否定され,使用されなくなっていった過程が明らかになった. 今後,さらにバウハウスにおいてカンディンスキイらが行った授業等から,ドイツにおけるファクトゥーラの展開を明らかにすること必要であると考えられる.
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