Research Abstract |
近年,深部体温上昇に伴う換気亢進反応が暑熱下での脳血流量低下に関与することが示唆された.過度な脳血流量低下は失神を招くため,この換気亢進による脳血流量低下が熱中症発生に関係している可能性が考えられる.これまでに,男性において,有酸素能力が高いものほど,この換気反応が小さくなるという関係が示されているが,性周期を有する女性において同様の関係が見られるかは不明である.この点が明らかになれば,女性の暑熱耐性向上方法としての運動トレーニングの新しい効果が示唆されると考えられる.以上のことを背景に,本年度では,健康な女性において深部体温上昇に伴う換気反応と有酸素能力の関係を検討することを目的として実験を行った. 健康な女性10名を対象に,最高酸素摂取量測定と,卵胞期と黄体期でそれぞれ運動時暑熱負荷テストを行った.運動時暑熱負荷テストにおいて,被験者は水循環スーツを着用し,50%最高酸素摂取量強度の自転車運動を30-60分間行った.深部体温の指標である食道温に対して換気量をプロットし,両パラメーターの回帰直線の傾きを体温上昇に伴う換気亢進反応の感受性として評価し,この感受性と最高酸素摂取量との相関関係を卵胞期と黄体期で評価した. 被験者の最高酸素摂取量は33.8~50.4ml/min/kg,深部体温上昇に伴う換気亢進反応の感受性は1.0~22.2l/min/℃であった.換気亢進反応の感受性と最高酸素摂取量との相関係数は,卵胞期で0.47,黄体期で0.38であり,いずれも有意ではなかった.以上のことから,健康な女性において,運動時の体温上昇に伴う換気亢進反応の感受性は有酸素能力と関係しないことが示唆される.しかし,今回の被験者数は10名と必ずしも多いとは言えないことから,今後さらに被験者数を増やして両者の関係を検討することが必要かもしれない.
|