2010 Fiscal Year Annual Research Report
DNA塩基及び塩基対が水溶液中で持つ光安定性機構の第一原理分子動力学法による解明
Project/Area Number |
10J00040
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Research Institution | Hokkaido University |
Principal Investigator |
山崎 祥平 北海道大学, 大学院・理学研究院, 特別研究員(PD)
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Keywords | DNA / 核酸塩基 / 光化学 / 励起状態 / 水素結合 / プロトン移動 / ポテンシャルエネルギー曲面 / 円錐交差 |
Research Abstract |
DNAやRNAを構成する核酸塩基及び塩基対が起こす光化学過程の理論計算による機構解明が本研究の目的である。本年度は、関連するいくつかの分子系について、励起状態におけるポテンシャルエネルギー曲面の高精度な量子化学計算を重点的に行った。まず、ウラシル並びにそのフッ素置換体である5-フルオロウラシルを例にとり、核酸塩基に光安定性をもたらす高速な無輻射失活過程の機構を詳細に検討した。光吸収によって励起状態が生成してから基底状態との円錐交差を介して失活するまでのポテンシャル曲面を二つの分子の間で比較した結果、フッ素化によってππ^*励起状態におけるエネルギー障壁がより高くなることが分かった。時間分解分光の実験ではウラシルの励起状態寿命がフッ素化することでより長くなることが分かっているが、今回の計算結果はこの実験事実をよく説明している。次に、二つの塩基分子が互いに水素結合したDNA塩基対のモデルとして長年研究されてきた7-アザインドール二量体について、励起状態における二重プロトン移動反応の経路を計算した。その結果、二つのプロトン移動が協奏的に起こること、つまり一つのプロトンのみが移動した安定中間体の生成を経ることなく反応が進行することを示した。さらに、二つのプロトンは、二量体の構造対称性を維持しながら同時に移動するのではなく、対称性を崩しながら非同期的に移動することも明らかにした。上記二つの研究のいずれについても、実験事実の背景にある光化学過程の機構を理論計算によって明確にしたという点で大きな意義を持つ。また、光化学反応の的確な機構予測のためには、構造最適化における動的電子相関の考慮や密度汎関数法における長距離補正の導入といった電子状態計算の精度向上が必要不可欠であることも明らかになった。以上の成果は、第一原理分子動力学法による光化学過程のシミュレーションを行うときの重要な指針となる。
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