2011 Fiscal Year Annual Research Report
DNA塩基及び塩基対が水溶液中で持つ光安定性機構の第一原理分子動力学法による解明
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10J00040
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Research Institution | Hokkaido University |
Principal Investigator |
山崎 祥平 北海道大学, 大学院・理学研究院, 特別研究員(PD)
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Keywords | 核酸塩基 / 核酸塩基対 / 光化学 / 励起状態 / 水素結合 / プロトン移動 / 分子軌道法 / 密度汎関数法 |
Research Abstract |
核酸塩基や塩基対、並びに関連する分子の電子励起状態について分子軌道法及び密度汎関数法による理論計算を遂行し、これらの分子における光化学過程の機構解明を進めた。まず、前年度に計算した核酸塩基の一つウラシルとその置換体5-フルオロウラシルに引き続き、ウラシルのメチル置換体であり自身も核酸塩基の一つであるチミンについて、光安定性をもたらす超高速失活過程の機構を高精度な量子化学計算によって検討した。これら三つの分子について励起状態におけるポテンシャルエネルギー曲面を比較したところ、実験ではウラシル・チミン・フルオロウラシルの順で励起状態寿命が長くなるにもかかわらず、計算ではこの寿命変化の全てをポテンシャルエネルギーの差異のみで説明することはできないという結果が得られた。このことは、核酸塩基における光化学過程の機構決定において動力学が本質的な役割を持つ可能性を示唆している。また、核酸塩基対のモデルとして知られる7-アザインドールの二量体(ホモダイマー)について、励起状態における二重プロトン移動反応が段階的ではなく協奏的に起こることを示すとともに、二つのうち一方の分子のみに置換基を導入した誘導体(ヘテロダイマー)においてもその反応機構が定性的には変化しないことをポテンシャルエネルギー曲面の計算から明らかにした。この結果は、協奏的な二重プロトン移動において分子構造が必ずしも対称性を保持しないという近年の分光実験による主張を支持している。さらに、アザインドールの単量体に水分子三つが水素結合したクラスターについて、励起状態プロトン移動に先だって分子間水素結合の組み換えが起こるとする実験事実を説明する結果を得た。今後は、動力学シミュレーションの方法を用いることで光化学過程のさらなる機構解明を進める予定である。
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Current Status of Research Progress |
Current Status of Research Progress
3: Progress in research has been slightly delayed.
Reason
当初の計画では、気相中の核酸塩基・塩基対についての第一原理分子動力学シミュレーションを平成23年度中に遂行する予定であったが、実際にはポテンシャルエネルギー曲面の計算を行うのみにとどまっている。これは、実験と矛盾しない計算結果を得るために予想より精度の高い量子化学計算を行う必要があったこと、それを実行するためにより多くの計算時間を要したことが理由である。
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Strategy for Future Research Activity |
気相中の核酸塩基・塩基対における光化学過程についての第一原理分子動力学シミュレーションを実行し、反応機構のさらなる解明を進める。これまでに高精度な量子化学計算で得たポテンシャルエネルギー曲面を定性的に再現し、且つ計算時間のより少ない第一原理手法を選択することで、現実的な計算時間でのシミュレーション実行を図る。現在、そのための予備計算を既に開始している。時間が許せば、水溶液中の反応についてのシミュレーションも遂行する。
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