2012 Fiscal Year Annual Research Report
DNA塩基及び塩基対が水溶液中で持つ光安定性機構の第一原理分子動力学法による解明
Project/Area Number |
10J00040
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Research Institution | Hokkaido University |
Principal Investigator |
山崎 祥平 北海道大学, 大学院・理学研究院, 特別研究員(PD)
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Keywords | 核酸塩基 / ワトソン・クリック塩基対 / 水和クラスター / 水素結合 / 光化学過程 / 無輻射失活 / 励起状態プロトン移動 / 量子化学 |
Research Abstract |
核酸塩基や関連分子の単量体・二量体・水和クラスターで起こる光化学過程について、分子軌道法や密度汎関数法といった量子化学計算手法並びに分子動力学シミュレーション法を駆使した機構解明を推進した。まず、二つの核酸塩基分子が互いに水素結合したワトソン・クリック塩基対を対象とし、その光励起後に起こりうるとされる種々の過程についてポテンシャルエネルギー曲面の詳細な計算を行った。いわゆる長距離補正を施した時間依存密度汎関数法を採用することにより、従来では困難だった、複数の反応経路間におけるエネルギーの直接比較を行うことに成功した。計算の結果、各塩基分子内における高速な無輻射失活過程並びに二つの塩基間で起こる励起状態単一プロトン移動反応の両方ともが塩基対の光安定性に寄与しうることが初めて示唆された。次に、モデル塩基と呼ばれる7-アザインドール分子が水分子三つと水素結合して形成するクラスターにおいて、光励起の直後に水素結合の組み替えがほぼエネルギー障壁無しで起こること、そしてこの再配置の結果として励起状態多重プロトン移動反応による光異性化の障壁が著しく減少することを見出した。特に、水素結合が励起状態で組み替わるとする本研究の計算結果は、当該クラスターの電子スペクトル実験で見られる特異な観測結果とよく対応している。さらに、前年度までにポテンシャル曲面の計算を行った核酸塩基の一つチミンについて励起状態動力学のシミュレーションを実行し、水溶液中での無輻射失活が気相中にはない新たな分子機構によって起こる可能性を提示した。また、実験の研究グループ(横浜市立大学・三枝洋之教授)と協力し、プリン代謝の最終生成物である尿酸の光化学過程に対する一分子水和の影響について量子化学計算による検討を進めた。以上のように、水素結合の影響下における核酸塩基の光安定性機構について、理論研究によって一定の成果を得た。
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Research Products
(12 results)