Research Abstract |
本研究の目的は,議論活動(argumentation)を視点として,学校数学における証明活動の指導を構想することである。この目的の達成のために設定した三つの研究課題のうち,本年度は第一の課題「学校数学における証明活動をどのようなものと捉えるのかを,議論活動を視点として特定する」に関する考察を主として行った。 具体的な内容は以下の通りである。まず,証明という所産を生徒はどのように生成しうるのか,及び,証明という所産によって生徒はどのようなことを獲得しうるのかという両面を中心に展開されてきた先行研究に対して,前者に関して,証明の所産に現れる演繹的な推論だけでなく蓋然的な推論を含めた広い立場から証明の構想の過程を捉える必要性を,後者に関しては,証明の所産に明示的に現れるとは限らない証明活動の過程の価値を明らかにする必要性を指摘した。そして,議論活動を中心とした文献の解釈にもとづく理論的な考察によって,前者の課題に対しては,証明の構想の過程を捉える枠組みを提示し(6件の研究発表のうち『教育学系論集』への投稿論文が特に関連する),後者の課題に対しては,証明の構想の振り返りの役割を議論した(「CERME7」での発表論文)。その成果として,前者については,先行研究では十分に捉えられてこなかった証明の構想の二つの過程,すなわち,特殊の場合のみに成り立つ論を生徒が利用する過程,及び,未証明であるが成立の予想される事柄を利用する過程を,条件の付加及び論拠の裏づけという視点から捉えられることを明らかにした。後者については,証明活動の過程の振り返りによって,新たな問題やその解決の発見だけでなく,その後の証明活動に役立つ着想と方法の獲得が可能になるという教育的な価値を議論した。
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