2011 Fiscal Year Annual Research Report
Project/Area Number |
10J00855
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Research Institution | Waseda University |
Principal Investigator |
畑山 要介 早稲田大学, 文学研究科, 特別研究員(DC1)
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Keywords | 倫理的消費 / 消費主義 / フェアトレード / ネオリベラリズム / ソーシャル・マーケティング / 市民運動 / 消費社会論 |
Research Abstract |
本年度は、倫理的消費は必ずしも資本主義経済に支えられた消費主義的文化と対立するものではない、という昨年度の分析枠組をより精緻化し、さらに計量分析も加えることによってその妥当性を検討することをおこなった。その具体的な成果は大きく2つ挙げられる。第1の成果は、ネオリベラリズム概念を再定式化することを通じて、1980年代以降のフェアトレード運動の変容を社会全体のネオリベラル化の過程のひとつとして記述できる可能性を提示したことである。フェアトレード運動は市場経済に対抗するのではなく、むしろ市場という枠組みを戦略的に利用しながら目的達成を試みるようになってきた。これが意味するのは、市民運動が消費者の持つ予期それ自体をデータとする再帰的なマーケティングをおこなっているということである。フェアトレード・ラベルのメカニズムがその典型であり、消費主義文化の特性としてのシンボリックな作用を逆手に取ることによって、ある種の投資市場(たとえばカーボンオフセットのような)を形成することが可能となった。こうした分析を通じて、「倫理の市場化」をもって「市場の倫理化」をはかるというネオリベラルな戦略こそが現在のフェアトレード運動を基礎づけていることが明らかとなった。第2の成果は、消費主義的な意識と倫理的消費行動の結びつきを、質的調査のみではなく、標本調査データを用いた計量分析によっても明らかにしたことである。昨年の質的調査では、消費主義と倫理的消費が単に排他的ではないことを明らかにしたわけであるが、本年度の計量分析はさらに、消費者の持つ「個性志向的意識」と「独自のライフスタイル構築への欲求」という消費主義的な意識変数が、フェアトレード商品の購入に積極的に効果を与えていることを明らかにした。つまり、フェアトレード商品の消費者は公的な規範や道徳に従っているわけではなく、私的欲求の充足を目的として選択を決定しているということである。以上の2つの成果から、フェアトレード運動/消費が「社会規範によってではなく市場原理によって倫理的達成を為すシステム」であるという新たな視座が形成された。このシステム形成の意味を問うことは、社会のネオリベラル化の意味を問うことと必然的に結びついてくるだろう。
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Current Status of Research Progress |
Current Status of Research Progress
1: Research has progressed more than it was originally planned.
Reason
当初の計画では質的データのみを使用する予定であったが、研究の途中で量的データを使用することが可能となり、より妥当性の高い検証をおこなうことができるようになったため。また、ネオリベラリズムに関する理論的研究に際して、経済学など他の隣接分野に触れる機会が増え、より研究対象に対する理解とそのための方法論的視座が広がったため。
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Strategy for Future Research Activity |
本年度の末には、イギリスのフェアトレードの現状に関しても調査をおこなった。その考察と結果を、現在進行している研究の議論に組み込むことによって、より多角的・比較的視点から、全体的な結論を導き出していくことを、今後の推進方策としていく。理論的な枠組みの形成に関しては、この2年間でほぼその基礎的な土台を築くことができたので、計画の最終年度においては、その土台にもとづきながら実証的分析の結果を出していくことが可能であろうと考えている。
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