Research Abstract |
気孔は植物のガス交換を制御する器官であり,気孔の密度は植物の乾燥状態や,CO_2取り込みなどを制御する上で重要であり,その分子メカニズムの解明は,植物の環境への適応戦略を理解する上で重要である.我々は気孔密度を正に制御する葉肉発現の遺伝子STOMAGENを発見した.現在,申請書に示した通り,STOMAGEN遺伝子がなぜ葉肉発現であるのかを分子生理学的に研究している. STOMAGENの葉肉発現をつかさどる因子を探索するために,STOMAGENのプロモーター解析を行ったところ,STOMAGENのTSS上流250bpが重要であることが分かった.この領域を用いて,申請書に書いたとおり,酵母ワンハイブリット法を用いて,250bpの領域に直接結合するシロイヌナズナ転写因子を探索した.再現性良く得られる結合性が示唆される遺伝子が複数えられたため,その遺伝子のキメラリプレッサーラインの気孔密度を測定し,気孔分化に影響があらわれていないかを確認した.その結果,気孔密度が変化したラインを現在とることができていない. 一方,STOMAGENが葉肉で発現する理由を環境刺激に対する応答である,と考えて生理学的研究にも着手した.STOMAGENの発現は,暗処理12-24時間後で10分の1程度に低下するという光応答を示すこと.また,シロイヌナズナは異なる光強度では異なる気孔密度になることが知られているが,STOMAGENの発現量は,気孔密度と正の相関を示すことを確認した.植物の光応答には光受容体を介する経路と光合成を介する経路が知られているが,STOMAGEN遺伝子の発現量は,光合成阻害剤の添加で顕著に抑制され,光合成産物であるショ糖の添加で誘導されることが分かった.また,ショ糖の添加により,気孔密度が正に変化することも見出した.これらのデータは光合成と気孔分化とが関連していることを強く示唆する,最初の例となる.
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Current Status of Research Progress |
Current Status of Research Progress
2: Research has progressed on the whole more than it was originally planned.
Reason
計画に対して遅れている部分は申請書であった葉肉組織でのシグナルには転写因子の同定ができていない点である.理由としては酵母ワンハイブリット法で取れてきた遺伝子の中に,気孔分化に顕著な表現型を示す因子を同定できていないことが挙げられる.一方,計画ではできないとされていたシステミックシグナル因子の候補の同定に成功している.両者を総合して,成果の観点からはおおむね順調といえる.
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Strategy for Future Research Activity |
STOMAGEN遺伝子を直接制御する転写因子を発見することができれば,当初の計画通りであり,望ましい.これは今後も酵母ワンハイブリット法以外にも,データーベースを用いた逆遺伝学的手法を用いてもよい. 一方,STOMAGEN遺伝子を制御するメカニズムとして,光合成,そして植物の個体内で長距離移動するショ糖の関与を示唆するデータが蓄積してきた.本結果は気孔分化の10年にわたる謎である,システミックの分子機構を解明する糸口になると考えられるため,ショ糖と気孔分化の関与について積極的に研究を続けていく.
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