2011 Fiscal Year Annual Research Report
内集団ひいき行動の適応的基盤―理論的研究と実証的研究を用いた検討―
Project/Area Number |
10J01455
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Research Institution | Hokkaido University |
Principal Investigator |
小野田 竜一 北海道大学, 大学院・文学研究科, 特別研究員(DC1)
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Keywords | 利他行動 / 社会的交換 / 一般交換 / 間接的互恵性 / 内集団ひいき / 集団選択 / 内集団バイアス |
Research Abstract |
本研究の目的は内集団ひいき行動の適応的基盤を探ることにある。内集団ひいき行動とは、自分とは異なる集団(外集団)の成員よりも、自分と同じ集団(内集団)の成員に対して、より利他的に振舞うことをさす。しかし、なぜ人々が内集団ひいき行動を行うのかという問いに対する解答はこれまで得られていない。本研究では、適応論的立場に立脚し、この問いの解明を試みる。 本年度は、昨年度に引き続き、進化シミュレーションを実施した。昨年度は、選択的プレイ状況のギビング・ゲームを採用した進化シミュレーションを行っていた。これは、各個人が資源提供したい他者を選び出し、その個人に対して資源提供するゲームである。進化シミュレーションでは、複数の行為者から成る社会を想定し、各行為者がギビング・ゲームを行う中で、資源の提供の仕方に応じてどれだけの利益を得るのかを明らかにすることが可能である。それにより、どのような行動パターンが適応的か、またそのための条件は何かを解明できる。昨年度の研究では、内集団ひいき行動が適応的となり、その成立要件が示された。しかし、間接互恵性に関する先行研究(Nowak&Sigmund,1998)で想定されていた状況はそこで設定された状況とは大きく異なっており、ランダムマッチング状況(各個人がランダムに選ばれた個人に対して資源提供するか否かを決定する状況)が採用されていた。本年度は、そのような先行研究との比較を可能とするため、ランダムマッチング状況のシミュレーションを構築した。その結果、内集団ひいき行動は適応的にはならなかった。この結果を昨年度の結果と比較すると、内集団ひいき行動が適応的となるためには選択的プレイという状況が重要である可能性が新たに示唆される。この発見は報告者の研究にとってはもちろん、内集団ひいき行動に関する研究にとって重要な発見の1つとなりうるだろう。
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Current Status of Research Progress |
Current Status of Research Progress
2: Research has progressed on the whole more than it was originally planned.
Reason
交付申請書には、3年次には進化シミュレーション等で構築した内集団ひいき行動の適応的基盤に関するモデルと現実の人々の振る舞いとの乖離を検討する計画であり、実証研究すなわち実験研究を行うと記載した。本年度は、進化シミュレーションの精緻化を行い、内集団ひいき行動の適応的基盤に対する新たな発見に至ったといえる。これにより、検討すべき要件がより明確化され、実証研究のスムーズな推進に対して、その基盤を構築できたといえる。故に、おおむね順調に計画は進んでいるといえる。
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Strategy for Future Research Activity |
交付申請書に記載した、3年次に実証研究を行うという研究計画に変更はない。今後は、これまでに構築した内集団ひいき行動の適応的基盤に関するモデルと実際の人々の振る舞いとの乖離を実証研究によって検討する計画である。具体的には大人数から成る社会が2つの集団に分けられた状況を想定した心理学実験を行う。その状況において、人々が内集団ひいき行動をとるのか、さらには、どのような評判を持った個人に利他行動をとるのかを検討する。また、ランダムマッチング状況と選択的プレイ状況の違いによって、どのように人々の行動が変容するのかを検討し、モデルとの整合性を図る。以上の実証研究を経ることによって、モデルの妥当性を検討し、内集団ひいき行動に関する統合的なモデル構築を目指す。
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