2010 Fiscal Year Annual Research Report
Project/Area Number |
10J01720
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Research Institution | University of Tsukuba |
Principal Investigator |
根本 裕史 筑波大学, 大学院・人文社会科学研究科, 特別研究員(PD)
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Keywords | チベット / 国際情報交換 / 仏教学 / 論証学 |
Research Abstract |
本研究の目的はチベット仏教ゲルク派に伝わる論証学について文献学的な見地から考察し、その特色を明らかにすると共に、現在に至るまで実践されるゲルク派僧院の問答教育の理論的背景を探ることである。本年度は初期ゲルク派において重要な役割を果たしたケードゥプジェ(1385-1438)の『量七部荘厳』、ダライ・ラマ一世として名高いゲンドゥンドゥプ(1391-1474)の『正理荘厳』、そして、この両書を手本にしてジャムヤンシェーパ(1648-1721)によって著作された『証相の類型』を主たる資料として用い研究を進めた。 本年度に行なった主な研究の成果は二点にまとめられる。第一はゲルク派の学者達が考える、討論の場での対論者の役割について明らかにしたことである。彼らは対論者を「すぐれた対論者」と「擬似的な対論者」の二つに分類する。この場合の「すぐれた対論者」とは論争相手を論破することのできる者ではなく、論争相手すなわち立論者が提示した論証に基づいて、正しい推理知を得ることに成功する者である。この問題についての考察を通じて、ゲルク派の学者達は競争のための議論ではなく、教育のための議論を重視したことが明らかとなった。この研究成果を第12回国際チベット学会にて発表した。 第二の研究成果はゲルク派の推理論の基礎をなす肯定的遍充の概念について検討し、上述のような議論の教育的効果が得られるための諸条件を明らかにしたことである。ゲルク派によれば肯定的遍充とは、所立法が証因によって遍充されるという関係のことではなく、そのように遍充されるということが確定された証因そのものである。彼らはこのような遍充解釈を立てることを通じて、自身の論理学・論証学が新たに推理知を獲得する手段、もしくは、他者にそれを獲得せしめる手段についての学であることを強調しようとしている。これらの点について第58回日本チベット学会にて発表した。
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