2011 Fiscal Year Annual Research Report
葉内ベタシアニンがアマランサスにおけるC4光合成の光阻害緩和に果たす役割の解明
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10J01856
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Research Institution | Kyushu University |
Principal Investigator |
中島 大賢 九州大学, 大学院・農学研究院, 特別研究員(DC1)
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Keywords | アマランサス / 葉の老化 / クロロフィル蛍光 / C4 光合成 / 光阻害 / ベタシアニン / レーザー誘起蛍光 |
Research Abstract |
本年度は(1)葉内ベタシアニンの光防御機能の検討,(2)レーザー誘起蛍光(LIF)測定装置を用いた葉内における光防御効果の評価,および(3)光防御機能が老化葉の光合成特性に及ぼす影響の検討を行った.(1)では,アマランサス3種7系統の青葉・赤葉系統を用いて,葉内ベタシアニンの光防御機能を検討した.まず,ベタシアニンが葉の透過特性に及ぼす影響を検討した結果,クロロフィル含量には青葉・赤葉系統間(一部系統を除く)に有意差がないにも関わらず,赤葉系統では500-600nmの透過率が顕著に低いことを見出した.この結果から,ベタシアニンには葉内で青緑色光を吸収する「遮光作用」があることが分かった.次に,これらの葉に低CO_2条件下で強光を照射し光阻害感受性を比較したところ,光阻害程度はいずれの種でも赤葉系統で有意に低い値を示した.さらに(2)で強光処理後に葉の切片を作成し,LIF測定装置を用いて細胞レベルで光阻害程度を評価した.その結果,葉の表層部にある柵状葉肉細胞の光阻害程度は青葉・赤葉系統間に有意差はないものの,中層および下層部にある維管束鞘細胞および海綿状葉肉細胞では赤葉系統で顕著に低いことを見出した.以上(1)と(2)の結果より,葉内ベタシアニンの遮光作用は,葉の中層から下層部の光阻害を効果的に緩和することが明らかとなった. 次に(3)では,ベタシアニンの蓄積が光阻害によって促進される葉の老化に及ぼす影響を検討するため,青葉・赤葉系統の上位・中位・下位葉における光合成特性を比較し,赤葉系統では下位葉における光合成能を青葉系統よりも高く維持していることを見出した.また,赤葉系統では下位葉における炭酸固定系酵素の含量を高く維持していた.以上より,光阻害発生時に生じる活性酸素による炭酸固定系酵素の損傷・不活性化をベタシアニンの光防御機能が軽減した可能性が考えられた.今後,本色素の光防御機能と葉の老化抑制の関連性をさらに検討する必要がある.
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Current Status of Research Progress |
Current Status of Research Progress
2: Research has progressed on the whole more than it was originally planned.
Reason
葉内における極局所的なクロロフィル蛍光測定を可能にする「レーザー誘起蛍光(LIF)測定装置」の構築は本研究の重要な課題であったが,本年度までの研究で測定システムを確立し,方法論を投稿論文としてまとめた.また,本システムを用いることでC4植物葉内の異なる細胞型における光阻害特性を評価し,葉内ベタシアニンが葉内部の光阻害程度に及ぼす影響を明らかにした.今後,本システムを用いた更なる研究の発展が期待されるが,現時点での進捗状況としてはおおむね計画通りである.
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Strategy for Future Research Activity |
本年度までの研究では主に,クロロフィル蛍光測定やガス交換測定により葉内ベタシアニンがアマランサス葉の光阻害特性に及ぼす影響を明らかにした.来年度は生体計測的な手法に加え,生化学的分析手法を用いることで葉内ベタシアニンが光合成機構に及ぼす影響を検討する.特に,ベタシアニンの光防御機能が葉内の光酸化程度および炭酸固定系の活性に及ぼす影響を明らかにするため,光阻害条件下の葉における活性酸素生成量の定量,酸化タンパク質の定量およびウェスタンブロット法による同定を行う.また,これまでの研究では葉内ベタシアニンの遮光作用(葉内の過剰光を吸収し,葉緑体の過剰励起を緩和する作用)を主に調査したが,来年度は本色素の抗酸化作用についても検討する.
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Research Products
(7 results)