2010 Fiscal Year Annual Research Report
シアノバクテリア光化学系II複合体に関する構造生物学的研究
Project/Area Number |
10J02491
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Research Institution | Osaka City University |
Principal Investigator |
川上 恵典 大阪市立大学, 大学院・理学研究科, 特別研究員(PD)
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Keywords | 光化学系II |
Research Abstract |
光化学系II複合体(PSII)は、太陽の光エネルギーを生物が利用可能な化学エネルギーに変換すると共に、水を分解して酸素を発生させる超分子複合体である。PSIIの結晶構造はこれまで3.8~2.9Å分解能で報告されていたが、酸素発生反応を直接触媒しているMn_4Caクラスターとその周辺構造は、低分解能のため解明出来ていなかった。さらに、PSIIが酸素発生反応を行うためには塩素イオンが不可欠であることが以前から報告されているが、酸素発生反応における塩素イオンの機能的役割と、同族元素であるヨウ素イオンに置換することによって起こる酸素発生活性の失活の原因は未だ不明である。申請者はこれまでPSIIの精製・結晶化に従事し、PSII標品の精製・結晶化条件の最適化を行うことで、1.9Å分解能のX線回折強度データを収集することに成功し、このデータを共同研究者である梅名泰史博士研究員に解析して頂き、世界で初めてPSIIの酸素発生中心とその周辺構造を原子レベルで解明することに成功した。そして、この精製・結晶化条件を用いて、PSII内に存在する塩素イオンを臭素及びヨウ素イオンに置換した結晶を作製し、各結晶を2.0~2.1Å分解能という高い精度のX線回折強度データを収集することに成功した。これらの構造解析の現状は、まず各データの異常分散図から、塩素イオンが存在する位置(Cl-1, Cl-2 site)に臭素またはヨウ素イオンが付加されていることを確認した。さらに、臭素置換体PSII結晶における2つの臭素イオンの存在位置はそれぞれの塩素イオンの位置とほぼ同じであったのに対し、2つのヨウ素イオンの存在位置はそれぞれの塩素イオンの位置と少し異なっており、特にCl-2 siteに存在するヨウ素イオン周辺のアミノ酸残基に構造変化が起こっている兆候が、現在精密化中の電子密度図から見られた。今後、得られた各データの構造精密化を進めていくことで、ヨウ素置換によって起こる酸素発生反応の失活のメカニズムを解明する。
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