2011 Fiscal Year Annual Research Report
<同>の哲学史の誕生 : レヴィナス哲学史観の発生論的研究
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10J03034
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Research Institution | Hitotsubashi University |
Principal Investigator |
馬場 智一 一橋大学, 大学院・社会学研究科, 特別研究員(PD)
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Keywords | レヴィナス / レオン・ブランシュヴィク / ジャコブ・ゴルダン / マイモニデス / 融即 / ユダヤ哲学 / エチエンヌ・ジルソン / ハイデガー |
Research Abstract |
本研究の目的は1930~50年代におけるレヴィナスの哲学史観の発生を思想史的観点から解明することである。平成23年度はこの目的達成のために研究計画で挙げた諸々の作業のうち以下の3点について実施した。 1.レヴィナスにおけるブランシュヴィク受容の解明。 2.ゴルダンにおける哲学史観とレヴィナスにおけるその受容。 3.1928-29年のハイデガー講義へのレヴィナスの批判。 1.平成22年度に取り組んだ、ブランシュヴィクの哲学史観の解明の結果、レヴィナスにおけるブランシュヴィク受容全般の解明の必要性が生じた。平成23年度は、レヴィナスにおいてブランシュヴィクが「西欧(哲学)」を体現する存在であり、かつ「西欧」が、「知性の宗教」および「社会正義実現への熱望」という点でユダヤ教に「合流」するという点を明らかにした。これによりレヴィナスにおける「西欧」理解の肯定的側面が解明された。 2.平成22年度に入手した草稿を活用し、ゴルダンが描いた西欧哲学史観の再構成とレヴィナスにおけるその受容を明らかにした。ゴルダンはジルソンの「キリスト教哲学」概念に刺激をうけつつ、マイモニデス以来の「ユダヤ哲学」独自の論理を見出そうと努めていた。レヴィナスはこの論理を受け継ぎ、西欧哲学批判を遂行していることが判明した。 3.『時間と他者』の終盤でレヴィナスがハイデガーの共存在を融即の一種として批判しているが、その意義は理解しにくい。レヴィナスがフライブルク留学時に出席したハイデガーの講義『哲学入門』を読み解くことで、共存在が存在の真理への融即である故に批判されていることが解明された。また、この講義の内容がすでに戦後早い時期からフランスで知られていたことも判明した。
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Current Status of Research Progress |
Current Status of Research Progress
2: Research has progressed on the whole more than it was originally planned.
Reason
当初の予定では平成23年度中に1920-30年代の現象学における像(Bild)論と1930-40年代フランスにおけるヘーゲル・ハイデガー受容を研究する予定だったが、十分に扱えなかった。しかし、平成24年度に扱うはずの「融即」概念の解明がハイデガーの講義との関連で予想以上に進み、さらにレヴィナスの「西欧」理解の肯定的側面が判明したため、全体としてはおおむね順調に進展しているといえる。
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Strategy for Future Research Activity |
レヴィナスにおける「西欧哲学批判の発生」を解明するための課題として、その「西欧」概念、およびその批判の基盤となるべき「ユダヤ哲学」の論理はこれまでのところかなり明らかになった。今後は、「西欧哲学」批判の核心にある主体概念がどのようなものであるのか、次の2点を中心に明らかにする。 (1)1920-30年代現象学における像概念、とりわけオイゲン・フィンクのそれと、メルヒェンやハイデガーにおけるそれは、主体の根本能力として想像(力)を批判するレヴィナスの論理の意義を明確にするはずである。 (2)フランスにおけるハイデガー受容と平行してなされたヘーゲル受容もまた主体の根本能力としてのpouvoir-etre概念を重要視している。 平成24年度はとりわけこの2点の解明に注力する。その成果を踏まえた上で、もう一度融即概念批判に戻り、その哲学史的射程と西欧哲学批判としての意義をより明確にする。これにより、<同>による<他>の還元という哲学史観の発生の全体像が解明される。
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