2011 Fiscal Year Annual Research Report
時間論を通じたLuhmann社会システム理論の検討と精密化
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10J03646
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Research Institution | Kyoto University |
Principal Investigator |
溝口 佑爾 京都大学, 高等教育研究開発推進センター, 特別研究員(DC1)
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Keywords | ルーマン / 東日本大震災 / ボランティア / 復興支援 / 情報社会 / ネットワーク / グローバリゼーション / 社会構築主義 |
Research Abstract |
2011年度は、3月11日に起きた東日本大震災を受けて4月6日より被災地である宮城県亘理郡山元町に赴き、同町にて津波にのまれた写真約70万枚をデジタル技術を駆使して救済するプロジェクト「思い出サルベージ」を立ち上げた。同プロジェクトは津波にのまれて行方不明になった写真を持ち主の元に届けることを目的としたものである。被災した写真を洗浄・ナンバリング(IDを与える)・デジタル化することで後に残るように救済し、さらにデジタル化したデータをデータベース化することでキーワードや顔の画像から検索できるようにして返却につなげる。報告者はこのプロジェクトの事務局長兼現地責任者として山元町にて各作業の指揮、および町役場とのつなぎ役に努めた。現在では被災写真の洗浄と返却は多くの自治体で行われているが、思い出サルベージは山元町の写真約70万枚すべてをいち早くデータ化することに成功し、データベースを駆使して返却に役立てることに成功している稀有な例として評価されている。 理論的研究であるはずの当該研究と被災地支援活動とは一見するとかけ離れたものに思えるかもしれないが、実際には当該研究で培った視野があったからこそ情報技術を駆使した「思い出」の救済プロジェクトを発想したのであり、その点で当該研究と「思い出サルベージ」プロジェクトは密接に関係している。被災地においた情報技術の活用として通常思いつくのは未来に向けた情報発信や現在に向けた情報検索であろう。しかし、被災地山元町での情報技術の矛先として一つの正解であったのは、むしろ過去の「思い出」の救済であった。というのも、津波で何もかもを失った人々が最初に探し求めるものこそが思い出の品々であった。時間が進み始めるためには、土台となる過去(=思い出)が必要となる局面があるのである。このことは、自己言及(連続的な時間)には継起的な言及(断続的な時間)が不可欠であるという、当該研究の基本的な洞察が活きている。 今年度はこのように当該研究の時間論を通じたLhumann社会システム理論の検討と精密化の一つの適用例として「思い出サルベージ」の活動に取り組んだが、同時にその成果をアウトプットすることにも努めた(学会誌等への発表2. &学会発表(国内)4.5.7. &学会発表(海外)2.)。またその一方で昨年までの時間論に関する洞察を継続・発展させつつ研究として発表する機会を設けた(学会発表(国内)3.)。さらに、昨年度に着手したアジアにおける「圧縮された近代」の計量的な検討も発展させ、その成果を発表する機会を得た(学会誌等への発表1. &学会発表(国内)1.2.5. &学会発表(海外)1.)。近代化のスピードに着目するこの研究は、社会学のカギとなる概念の一つである近代化のバリエーションを計量的に考察することで、当該研究の応用的な側面を補うものとして位置づけられるものである。報告者はこの研究でJGSS公募論文2011の優秀論文賞を受賞した。
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Current Status of Research Progress |
Current Status of Research Progress
1: Research has progressed more than it was originally planned.
Reason
震災を受けて被災写真の救済に関わる研究という新しいテーマが浮上したが、それを当該研究と自然に接続することができた。また、被災写真の救済に関わるプロジェクトを中心的に行った結果、次年度以降の研究の土台が整備された。
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Strategy for Future Research Activity |
次年度は今年度に築いた研究の土壌を活かし、山元町における被災写真のデータベース化、および被災写真の救済プロジェクトのネットワーキングを行い、そこで得た知見を学術的に還元していく予定である。
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Research Products
(12 results)