2011 Fiscal Year Annual Research Report
現代中東におけるヨルダンの存立構造と国際的役割―イラク問題とパレスチナ問題から
Project/Area Number |
10J03762
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Research Institution | Kyoto University |
Principal Investigator |
今井 静 京都大学, アジア・アフリカ地域研究研究科, 特別研究員(DC1)
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Keywords | ヨルダン / 中東地域研究 / 国際関係論 / 国際政治経済論 / 経済自由化 / 貿易 / ヨルダン・イラク関係 / 中東和平プロセス |
Research Abstract |
本年は、研究課題である現代ヨルダンの存立構造および国際的役割について、主に国内の開発政策の変遷と貿易を中心とする経済を軸とした対外関係からの議論を深めた。先行研究ではこのようなヨルダンの経済的側面に関わる包括的な研究が過少であるため、現地の統計局や各省庁が発行する年次報告書等の文書を活用し、統計を含む一次資料をもとにした実証的研究を試みた。 具体的な研究内容およびその成果は以下の三点にまとめることができる。一点目に、1970年代から90年代にかけて数度にわたって策定及び実施された政府主導の「経済社会開発計画」に着目し、ヨルダンにおける輸送インフラと製造業の育成がどのように進められ、またそれらが対外貿易の拡大と変容にいかなる影響を及ぼしたのかについて検討した。そして、計画に対する隣国イラクによる資金援助を基にして両国間の輸送インフラとイラクへの中継貿易の要であるアカバ港が整備され、貿易の急拡大を背景に二国間の経済的関係が強化されたことを明らかにしたうえで、それに伴って首都アンマーンを含む北西部を中心とするヨルダンの経済構造の中でアカバを中心とする南部が独自の地位を確立していったことを示し、先行研究では実証的に論じられることのなかった対イラク関係と国内の経済社会構造との関連について検証した。二点目に、1980年代末から開始された経済自由化の特色とその意義について、特に2000年代の対外貿易の拡大を軸に研究を進めた。特に、公企業の民営化や経済特区の設立といった国内政策の詳細について明らかにしたうえで、自由貿易の実現に向けた方策の意義について明らかにした。そして、イラクやサウディアラビア、アメリカ合衆国といった主要な貿易相手との取引の特色について論じ、自由化政策下での貿易が国内の製造業にどのような影響を及ぼしているのかについて検討した。三点目に、1990年代の湾岸危機・戦争や中東和平プロセス、パレスチナ自治区の設立など、中東地域をめぐる国際政治の変動の中で、ヨルダンと域内諸国との経済関係がどのように変化したのかを、対外貿易の変遷を追うことで明らかにした。とりわけ、イラクと湾岸諸国、イスラエルとの関係に着目し、それぞれの国との外交関係も参照しながら、経済的側面にとどまらないヨルダンの対外関係構築のプロセスを視野に入れた議論を展開した。
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Current Status of Research Progress |
Current Status of Research Progress
1: Research has progressed more than it was originally planned.
Reason
本年度は、ヨルダンの国内産業の発展・育成と国際関係の変化との関係の検証、そして対イラク関係の経済社会構造への影響の検討という、二つの目的を掲げて研究を進めた。それぞれの点について、ヨルダン政府機関が発行している統計資料や公文書を収集・分析し、国際ワークショップでの発表や、論文の執筆・投稿により研究成果を発信することができた。また、現地機関における資料収集も順調であり、今後もさらなる議論の深化が期待できる。
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Strategy for Future Research Activity |
これまでの研究成果をもとに、今後も一次資料の収集と丹念な分析から、研究課題の遂行に努める。また、本年度は研究内容や論文投稿等による成果発信もおおむね計画通りに行うことができているため、次年度も大きな計画の変更はしない。
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