2011 Fiscal Year Annual Research Report
「環境権」をめぐる公共性概念に関する研究―松下竜一の「暗闇の思想」を中心に
Project/Area Number |
10J04034
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Research Institution | Osaka University |
Principal Investigator |
堀川 弘美 大阪大学, 文学研究科, 特別研究員(DC1)
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Keywords | 松下竜一 / 刑罰概念 / 草の根市民運動 |
Research Abstract |
本年度は松下竜一の運動の一つの柱であった刑罰に関わる思想の研究を行った。日本における刑罰概念を既に内面化してしまっている私自身が日本にいながら日本に定着している刑罰概念を問い直すことの限界を感じ、刑罰に関わる草の根市民運動の経験の豊かなカリフォルニアに拠点を移し、研究を行った。同時に運動を分野別に縦割りにして観察することを避け、その各々のテーマに関する研究、その各々の運動のあり方を研究するのではなく、草の根市民運動そのものの持つ可能性を言語化することを意識しながら研究を行った。刑罰に関わる運動を一つの研究対象として取り上げた根拠について述べておきたい。そもそも日本において草の根市民運動は孤立しがちな存在であるが、その中でも極めて孤立度の高い運動が刑罰に関わる運動であることに気付く。「加害者」とされた人たちの語りが鋭く消され、また「加害者」とされた人たちについて語ること自体が非常に困難なこと。また「被害者」に関わる語りも限定的で、典型的「被害者像」に当てはまらない「被害者」は社会から「被害者」と見なされない、という困難も見えてきた。また今の刑罰システムにおいて「加害者」が罰せられることで社会から「解決済み」とされ、苦しみ続けている人たちがいることが見えてきた。つまり刑罰に関わる話は未踏の領域であるにも関わらず、善か悪かというあまりにも明快な区分において「正義」の言葉で語られ、その会話の糸口を失っているという大きな問題がある。草の根市民運動は何らかの暴力に抗って取り組まれているわけだが、その役割はその暴力によって切っても切れない関係性を紡ぐ、という大きな営みのことだと考えている。その関係性の生成が非常に困難なこの刑罰に関わる運動に焦点を当てることで、草の根市民運動の可能性を語る手がかりが得られるのではないか、と考え、このテーマに焦点を当て研究を行った。
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Current Status of Research Progress |
Current Status of Research Progress
1: Research has progressed more than it was originally planned.
Reason
全くバックグラウンドを共有していないアメリカで、まずは関係生成から始めるという大きな課題があったが、それがスムーズに進んだため、計画していた以上に多くの資料を入手でき、また人と出会い、関係性を濃密に積み重ねることができている。
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Strategy for Future Research Activity |
本研究課題の遂行方法は、これまでのエスノグラフィー的手法をとりながら、継続して行って行く予定である。運動に関わる人たちの運動の側面だけを切り取るのではなく、その人の生活の中でどのような形で運動があるのか、という視覚的には不明確な、しかし、草の根市民運動を語る際には決して逃しては行けない、と考えている点にこだわった研究を行って行く予定である。
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