2011 Fiscal Year Annual Research Report
自閉症の対人認知過程での場面情報処理における弱い中枢性統合の影響
Project/Area Number |
10J04467
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Research Institution | Hokkaido University |
Principal Investigator |
日高 茂暢 北海道大学, 大学院・教育学院, 特別研究員(DC1)
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Keywords | 自閉症スペクトラム障害 / 表情認知 / 文脈効果 / プライミング効果 / 事象関連電位 / 社会的認知 / アナログ研究 |
Research Abstract |
事象関連電位(Event-related potential:ERP)を用い,文脈に対する表情の適合性を判断している際の脳活動を時間軸に沿って測定した。ERPを用いた研究では,言語的な文脈からの意味逸脱を反映するN400というERP成分が知られている。本年度もN400を1つの指標に検討した。具体的には,対人場面を文章で呈示することで生じた意味プライミングを,表情認知課題に組み合わせた。 プライミングは,先行するプライム刺激が処理された時,その意味と関連する概念が活性化し,後続する標的刺激の処理が促進される,という意味ネットワークの活性化拡散という理論で説明される。期待される意味から逸脱の程度が大きいほど,N400振幅は増大することが知られている。そのため,先行刺激と標的刺激間でプライミング効果が見られた場合,N400振幅は減少する。昨年度の研究では,自閉症スペクトラム傾向が高い被験者ほどN400振幅が減少した。従って,自閉症スペクトラム傾向が高い被験者ほど,社会的状況から期待される表情・情動価と逸脱表情の間にプライミング効果が起きていると考えられる。本年度は,文脈から予期される表情に対するプライミング効果について,時系列的・半球的に検討を行った。 自閉症スペクトラム傾向におけるコミュニケーションの苦手さが高い被験者ほど,文脈刺激から逸脱表情が出現するまでの時間が長い場合でも,N400振幅が減少した。自閉症スペクトラム傾向のある定型発達成人は,逸脱表情に対してプライミング効果が長く持続したことを示す。自閉症スペクトラム傾向が高い場合,制御的予期段階における意味的期待に沿った促進・抑制処理が機能不全である可能性が考えられる。文脈を利用した表情処理過程において,自閉症スペクトラムは過去の経験に基づいた文脈の学習やその適用に困難があると考えられる。
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Current Status of Research Progress |
Current Status of Research Progress
3: Progress in research has been slightly delayed.
Reason
交付申請書では,感情価をもつ視覚的場面情報を用いた文脈効果を検討する予定であった。しかし,視覚的場面情報はそこに含まれる情報が複雑であり,実験上の統制が困難であった。そのため,本年度では昨年度に引き続き,場面情報のもつ感覚モダリティを廃し,社会的場面に関する概念,経験に関する検討を行った。
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Strategy for Future Research Activity |
自閉症スペクトラム障害における表情認知の問題に,場面情報がどのように影響するかを検討する上で,いくつかの研究計画の変更が必要である。第一に場面情報の持つ概念・予期の活性化という点で,今後も引き続き意味プライミングを行う必要がある。そのうえで,場面情報からの表情を予期する過程において,自動性と制御性を分離して検討する必要がある。この問題は,文脈情報呈示後に表情刺激が呈示されるまでの時間を操作することで解決できる。第二に,文脈処理を視覚情報処理経路の観点から考えた場合,予期を可能にする大細胞視知覚の問題を検討する必要がある。そのために,場面情報あるいは表情刺激に対して,大細胞視知覚に感度のある空間周波数成分を操作する必要があると考えられる。
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