2011 Fiscal Year Annual Research Report
Project/Area Number |
10J04709
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Research Institution | Waseda University |
Principal Investigator |
似鳥 雄一 早稲田大学, 文学研究科, 特別研究員(DC1)
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Keywords | 備中国新見荘 / 百姓名 / 成松名 / 集落名 / 地理的分布 / 開発形態 |
Research Abstract |
本研究は中世後期村落の動向と性格、地域社会全体における位置付けを明らかにすることを目的としている。 本年度は備中国新見荘を題材として、鎌倉期~室町初期の検注帳や散用状などといった帳簿類の分析により、荘園の主要構成要素である略」の特質について地理的な分布状況、立地特性と開発形態などの観点から検討を行った。はじめに新見荘における名の体系を整理し、百姓名およびそれに準ずる性格を持つ成松二次名をとりあつかうこととした。 その結果、以下のような成果を得た。名の地理的分布のあり方として、新見荘では作人の耕作実態をベースとして谷ごとにまとまって分布する集中型であることが大きな特徴とされてきたが、それは荘域の全てを覆う状況ではなく、実は荘域中枢で最大の田地を持つ「西方」地域こそがその例外で、地理的に連続性のない田地を耕作する作人を組み合わせた散在型であったことを示した。そしてその大きな要因として一定規模の平地の存在を挙げ、山間部の荘園でも地理的条件によって擬制的な名編成が行われうることを指摘した。 それでは名に反映された在地の様相とはいかなるものがあるかと考えたとき、強調すべき事象として集落名という新たな種類の名の成立を挙げた。新見荘で観察された事例は後発的に開発された谷奥の名という開発形態・立地条件の上で共通した属性を持ち、それが周囲に対する独自性として高まった結果、在地住民の生活単位である集落が徴税単位に組み込まれたものと考察した。集落名の成立は擬制的な徴税単位とされた名のうえに自覚的な集落が浮かび上がってきたということ、言いかえれば集落という地縁的な共同体が貢納の主体として承認されたということで、それは名の性格からすれば非常に重要な変質であり、特に新見荘では長期間にわたる事例の漸増を注目すべき点として指摘した。
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Current Status of Research Progress |
Current Status of Research Progress
2: Research has progressed on the whole more than it was originally planned.
Reason
東寺領遠隔地荘園である備中国新見荘を分析対象として、荘園経営の主要なツールである「名」の一種として、在地住民の生活単位としての性格を帯びた集落名が長期間にわたって成立していることを見出すことができ、荘園における集落の動向を明らかにするという点で研究が進展した。
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Strategy for Future Research Activity |
今年度は荘園制下における集落・村落という観点での検討が中心であったので、今後は戦国~織豊期に足場を移して惣村文書の分析による惣村の政治動向の解明と地域社会における位置付けに取り組むこととする。
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