2011 Fiscal Year Annual Research Report
超高分解能近接場光学顕微鏡の開発と分子鎖像に基づく高分子ナノ構造の研究
Project/Area Number |
10J04790
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Research Institution | Kyoto University |
Principal Investigator |
玉井 康成 京都大学, 工学研究科, 特別研究員(DC1)
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Keywords | 高分子ナノ構造 / 共役高分子 / 高分子結晶 / H-会合体 / 励起子 / 励起子拡散 / singlet fission |
Research Abstract |
本研究はナノレベルでの分子形態観察から進めて、高分子の集合構造と光・電子機能との相関に着目し、有機エレクトロニクスの分野での活躍が期待される共役高分子の機能をナノスケールの構造から解明しようとする試みである。本研究では共役高分子の中でも特に盛んに研究されているpoly(3-hexylthiophene) (P3HT)とpoly(9,9-dioctylfluorenyl-2,7-diyl)(PFO)の二種の高分子を研究対象として選択した。当該年度における研究成果は主に以下の二点に要約される。 (1)結晶性のregioregular-P3HT (RR-P3HT)とアモルファスなregiorandom-P3HT (RRa-P3HT)とを用いて、これらの薄膜内で生成した励起子の拡散ダイナミクスについて膜の結晶性が及ぼす影響について検討した。その結果、アモルファスなRRa-P3HTでは励起子は三次元的にランダムな拡散をするのに対し、結晶性のRR-P3HTは一次元的な拡散挙動を示し、またRRa-P3HTに比べ拡散定数が一桁程度大きいことを明らかにした。これはP3HT薄膜内での励起子拡散の次元性およびその起源について深く追求した初の研究であり、近日論文を投稿する予定である。 (2)ベンタセンなどの低分子結晶中においては古くから三重項励起子の高速生成が知られており、これは一重項励起子分裂(singlet fission)によるものとされている。Singlet fissionの効率は薄膜内のモルフォロジーに依存すると予想されているが、その詳細は明らかになっていない。本研究ではPFO薄膜内でのsinglet fissionとモルフォロジーとの関係について分子レベルから検討している。PFOもまた薄膜作成法を変えることにより、アモルファスな薄膜とβ-相と呼ばれる主鎖が平面状にパッキングした構造を形成する。当該年度の研究によりアモルファスな薄膜の方がsingletfissionによる三重項対の生成量が多いことがわかった。これはβ-PFO薄膜では電荷生成反応がsinglet fissionと競合するためであることがわかった。共役高分子系におけるsinglet fissionの研究例は極めて少なく、フルオレン系共役高分子でのsinglet fissionは本研究ではじめて確認された。今後細部の検討をした後、論文を投稿する予定である。
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Current Status of Research Progress |
Current Status of Research Progress
2: Research has progressed on the whole more than it was originally planned.
Reason
上記研究成果はどちらも世界一級レベルの質の高い研究であると自負しており、その点では当初の計画以上に進展していると言える。しかしながら細部まで細やかな検討をしたために論文執筆が当初の計画よりも若干遅れており、その点を加味した結果(2)の区分とした。
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Strategy for Future Research Activity |
(1)について今後は結晶性を変えたP3HT薄膜における励起子の拡散性について検討を行い、結晶化度が励起子拡散に及ぼす影響について検討する予定である。 (2)について今後は次の二点に着目する。一点目はsinglet fission反応において、近年の量子化学計算の結果からその存在が示唆されている中間状態の有無について検討する。二点目は狭バンドギャップ型共役高分子においてもsinglet fissionが起こるかを検討していく予定である。
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