2010 Fiscal Year Annual Research Report
ゾラの小説における「予告」:語りの手法と作家の社会思想の関係
Project/Area Number |
10J04849
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Research Institution | Kyoto University |
Principal Investigator |
中村 翠 京都大学, 文学研究科, 特別研究員(DC2)
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Keywords | ゾラ / 自然主義 / 生成研究 / 草稿 / 予告 / ルーゴン・マッカール叢書 / 19世紀 / フランス |
Research Abstract |
本研究は、19世紀フランスの自然主義小説家エミール・ゾラが用いる「予告」を分析の対象とする。予告とは、物語のクライマックスを前もって仄めかし、読者の期待を呼び覚ます語りの手法である。本年度は以下の二点を軸に研究を進めた。まず、ゾラの作品群における予告の表象のされ方を網羅的に調査した。それによると、初期から中期作品においては、予告を担う登場人物は必ず脇役であり、しかも社会の周縁に位置するマージナルな人物であることが多い。ゆえに、予告者が口にする都合の悪い将来は、社会の人々によって否定される。このようにゾラにおける予告の存在は、単に語りの戦略であるのみならず、真理を排斥する社会の欺瞞を物語内に描き出すものであった。ところが後期作品になると、予告及び予告者の描かれ方に変化が現れる。予告者は必ずしも脇役やマージナルな登場人物ではなくなり、むしろ幸福な理想社会の到来を告げる主要人物となってゆく。その変化の生じる地点を探ると、『ルーゴン・マッカール叢書』第18巻『金』中では、すでに新しいタイプの予告者の萌芽が社会主義者シジスモンという人物像に見出され、従来のタイプの予告者であるメシャンと共存していることがわかった。次に、この結果を受け、『金』に的を絞って生成研究を行った。フランス国立図書館に所蔵される草稿をマイクロフィルムにて調査すると、別の登場人物からの分化を経て、新しいタイプの予告者が重要性を確立していく過程が明らかになった。それはすなわち、ゾラの創作態度が、現存の社会の欺瞞を暴くことから、未来の理想社会を描き出すことへと、移行していったということを示している。以上のように、本年度はテクスト分析及び草稿研究を行うことにより、予告という語りの機能が、作家のイデオロギーと深く関わりながら変化していく地点を明らかにした。この研究成果は日本フランス語フランス文学会秋季大会で発表された。
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Research Products
(2 results)