2012 Fiscal Year Annual Research Report
河川環境変化が水生昆虫の遺伝的多様性に与える影響の解明
Project/Area Number |
10J05462
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Research Institution | Tohoku University |
Principal Investigator |
八重樫 咲子 東北大学, 大学院・工学研究科, 特別研究員(DC1)
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Keywords | 水生昆虫 / 遺伝的多様性 / 河川環境 / 生息場 |
Research Abstract |
本研究は,自然河川と流量制御を受けた河川に分布する底生動物の遺伝調査により,水生昆虫の流域内の遺伝子流動と遺伝的多様性に与える影響の解明を行うことを目的として行われている.この背景のもと,底生動物の遺伝解析および底生動物群集構造解析により,水生昆虫の流域内遺伝子流動パターン,遺伝的多様性の原動力,生息場と集団の遺伝的多様性の関係の解明を行った.まず,遺伝情報を用いてヒゲナガカワトビケラ(Stenopsyche marmorata)の移動分散の解析を,高感度DNAマーカーを用いて行った.その結果,従来の知られていた移動分散パターンとは異なる移動パターンが解明され,遺伝解析による水生昆虫の移動分散パターンの解析の有効性が示された.この結果は現在,国際誌に論文投稿中である.続いて,遺伝子流動の履歴と流域内の遺伝的分化の研究を行った.ここではヒゲナガカワトビケラは異なる2種の侵入経路を持ち,彼らが同一水系に住み分けて生息していることを明らかにした.また,同種が流域内で交雑を行っていることを確認した.同種の流域内の高い遺伝的多様性は,このような複数の侵入経路と履歴の異なる集団の交雑が一員となっている可能性がある.本解析は遺伝的多様性の低下した集団において,集団の存続可能性を高める具体的な河川管理に応用されることが期待される.これらの結果は現在,論文準備中である.続いて河川の上流から下流まで,早瀬からワンドまで広く生息するモンカゲロウ(Ephemera strigata)を対象に生息場構造と遺伝的な環境適応の関係を解析した.ハビタット多様性と遺伝的多様性および遺伝子頻度の間に相関が見られ,多くのハビタットが均等に存在するほど集団の遺伝的多様性は高まることが示唆された.この結果は国内誌に発表され,第49回環境工学研究フォーラムにおいて論文奨励賞を受賞することとなった.
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