2010 Fiscal Year Annual Research Report
近代西欧における遠隔作用概念の思想史・文化史的研究
Project/Area Number |
10J05482
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Research Institution | Keio University |
Principal Investigator |
奥村 大介 慶應義塾大学, 文学研究科, 特別研究員(DC1)
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Keywords | 遠隔作用 / 科学思想史 / 科学史 / 医学史 / 文化史 |
Research Abstract |
本年度はまず中世・ルネサンスの思想にみられる引力概念を調査し、そこからニュートンの重力理論に至る変容過程を考察した。重力概念の文化的展開を文学・哲学などの領域に探り、「重力の克服」と「重力への同意」と呼ぶべき系譜を歴史的に精査した。この成果は、遠隔作用概念を物理科学史に限定して記述している先行研究(Hesse, Forces and Fields, 1961;山本義隆『磁力と重力の発見』2003年)に文化史的側面を補完する意義をもつ。この研究成果を、落下現象の文化史的記述、様々な文学テクストに現れる重力や落下のイマージュの比較文学的考察、哲学者S.ヴェイユの重力論の読解と合わせて論じた複合的論考「高みへの落下、あるいはシモーヌ・ヴェイユと重力の詩学」として、『現代詩手帖』誌に寄稿した。この論考が掲載される同誌S.ヴェイユ特集号は2011年秋に刊行予定である。また、社会思想領域における引力や不可量流体の概念をW.ライヒを対象に分析した。ライヒの思想は、従来、精神医学史のなかで古典的精神分析を今日的な自我心理学へと展開するものとして理解され、社会思想史のなかでは性的欲望をめぐる精神分析理論をマルクス主義に統合しく性の解放〉によって社会を変革しようとする革命思想として論じられることが多かったが、後期著作にみられる不可量流体概念「オルゴン」は、いまだ充分な研究対象とはなっていない。本研究の成果は、後期ライヒ思想を解明するものとして重要である。ライヒについては2011年秋の社会思想史学会で発表するべく申請を済ませており、第一次エントリーが完了している。さらに、今年度は当研究計画の初年度であり、全研究の理論基盤を明確化するために、本研究を理論的に支えるフランス科学認識論についての考察を行なった。この成果は「日本におけるフランス科学認識論:脱領域の知性のために」という論考として三田哲学会に投稿され、2011年3月刊行の同学会誌『哲学』第126集に掲載された。
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Research Products
(5 results)