2011 Fiscal Year Annual Research Report
近代西欧における遠隔作用概念の思想史・文化史的研究
Project/Area Number |
10J05482
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Research Institution | Keio University |
Principal Investigator |
奥村 大介 慶應義塾大学, 文学部, 特別研究員(DC1)
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Keywords | 放射線 / 生体放射 / 動物磁気 / 電気治療 / 重力 / 科学思想史 / 社会思想史 / 科学史 |
Research Abstract |
本年度は、まず放射線の概念史・文化史的研究を行なった。具体的には、通常の核エネルギー放射に比して思想史研究の対象とされることの少なかった生体放射概念をロシア生まれの生物学者グールヴィチ(1874-1954)とオーストリア生まれの精神分析家・社会思想家ライヒ(1897-1957)の思想の中に探った。その成果は瀬戸口明久・大阪市立大学准教授と私が企画運営した「日本科学史学会生物学史分科会夏の学校」にて口演された(近刊『生物学史研究』誌に論攷として掲載予定)。ライヒについては、従来その前期思想(精神分析・社会思想)が研究評価の対象とされてきた一方で、後期の生体エネルギー論については殆ど解明されてこなかった。この欠を補うべく、ライヒ後期の著作を精査し、かつそれを前期活動と関連づけて分析した。その成果は精神医学史学会・社会思想史学会で口頭発表された。また本年度は遠隔作用的な医術として、オーストリアの医師メスメル(1734-1815)の動物磁気治療術(メスメリスム)が思想・芸術などの文化に及ぼした影響を調査し、その成果を表象文化論学会で口頭発表した。これは従来19世紀までの文化史的波及が知られていたメスメリスムについて、その消息を20世紀後半の文化にまで訪ねるもので、従来のメスメリスム文化史を大きく拡張する。さらに電気治療について、従来、心身全般の治療法としての包括的歴史研究はほとんどなされてこなったことに鑑み、17世紀から現代までの電気治療術の通史的記述を試みた(「電気治療の歴史」として日本科学史学会・西日本大会で口演)。また、昨年度に続きニュートン以降の重力概念の文化史的展開を調査し、とくにCh.フーリエの情念引力概念について調査・分析を行ない、その成果を前年度の研究成果と総合した論放「重力の観念史」として『哲学』誌(三田哲学会)に掲載した。核エネルギー放射については、原子爆弾についての資料蒐集のため、広島にてフィールドワークを行なった。
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Current Status of Research Progress |
Current Status of Research Progress
1: Research has progressed more than it was originally planned.
Reason
2011年度は、当該研究に直接関連するものとして、単著論文を二篇、共著単行本を一冊、書評論文を一篇、また口頭発表を五回行なった。これらの成果はすべて研究目的に直属するものであり、今年度提出予定の博士論文に集約されるものである。また当初西欧近代のみを調査対象としていた研究計画であるが、研究が進展するなかで、日本近代における遠隔作用概念の受容史にも重要な思想史的意味があることが看取された。これは当初の計画を超える成果である。よって、研究目的の達成度は「当初の計画以上に進展している」と評することができる。
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Strategy for Future Research Activity |
研究は順調に進んでおり、これまでの調査・分析の成果を2012年度に博士論文としてまとめる。研究題目には「近代西欧」という時代・地域的限定をかけたが、これまでの調査の過程で、その近代西欧の遠隔作用概念が日本の近現代文化史においても重要な展開をみせていることが判明したため、博士論文では日本近現代のことも補足的忙言及する。また「遠隔作用」概念の思想史・文化史的研究(博士論文)を完成させることが最優先課題だが、この研究を補完するものとして、余力があれば、「近接作用の思想史・文化史」にかかわる副論文も用意したい。
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Research Products
(13 results)