2010 Fiscal Year Annual Research Report
Project/Area Number |
10J05524
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Research Institution | Kyoto University |
Principal Investigator |
君嶋 泰明 京都大学, 文学研究科, 特別研究員(DC1)
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Keywords | ハイデガー / 初期フライブルク期 / 否定 / 現象学 |
Research Abstract |
当初の計画通り、第1年度は、『存在と時間』(1927年)に結実する初期ハイデガーの思想を包括的に理解することを目標にして、研究を行った。具体的には、1919年から1922年にかけてフライブルク大学で行われた諸講義を解釈した。 この「『存在と時間』以前」の時期への注目は、ハイデガー研究における近年のトレンドの一つではあるが、それ自体は何ら一枚岩的なものではなく、この時期にしてすでに見られるハイデガーの語りの内実上の深さ、広さに、研究者たち自身の関心が組み合わさることで、様々なアプローチが混在しており、さらにこの時期の講義群に対する原則的な解釈方針というものがいまだ確立されているとは言い難いため、悪く言えば「言いたい放題」、「言った者勝ち」的な状況が、一部では見受けられるほどである。 このような状況のなか、報告者は、解釈を通じて自らが手にしているハイデガー哲学の全体像が、講義テキストのあらゆる細部に適合しているかどうかを、そのつどチェックすることを心がけた。そうした細部のなかには、多くの研究者が見て見ぬ振りをしているかのように素通りしているものもある。その一つに、いくつかの講義で見られる、「否定(Negation)」や「無(Nichts)」といったものに対する考察がある。報告者は、日本現象学会第32回研究大会にて、それらの考察が、この時期のハイデガー哲学の方法に重要な仕方でかかわっていることを示した。この発表原稿は、同学会誌である『現象学年報』への掲載が決定済みである。 この研究は、この時期のハイデガー哲学の原則的な解釈方針の確立を目指すものでありつつ、独自の視点を持つものでもあり、上述の状況を鑑みたとき、固有の意義を持っている。
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