2011 Fiscal Year Annual Research Report
Project/Area Number |
10J05804
|
Research Institution | The University of Tokyo |
Principal Investigator |
松尾 梨沙 東京大学, 大学院・総合文化研究科, 特別研究員(DC1)
|
Keywords | ショパン / 楽曲分析 / 演奏論 / ポーランド語 / 詩学 / 手紙 |
Research Abstract |
本研究の目的「ショパンの作曲技法について、和声、音型、リズムが各パラメータを超えて連動するという分析を行った上で、このはたらきがショパン全作品に通じる可能性を示唆すること」を踏まえて、平成23年度は、ワルシャワ大学音楽学研究所において研究を続行した。その際現地で入手した、約半世紀ぶりに出版されたショパンの『往復書簡集』(ワルシャワ大学出版会、2009年刊)を読み、上記のような分析方法に、ショパンの「ポーランド語の言葉の扱い方」が深く関連しているのではないか、ということが考えられるようになったため、ワルシャワ大学国文学専攻の講義への参加、国文学研究者からの直接の指導も受け、自身で実際にショパンの手紙の詩学分析を試みることとした。 その結果、手紙においても音楽作品においても共通して見られる傾向に、「類型要素の近接配置」があったため、これに基づいた調査、分析をもとに、帰国後学会にて発表を行った。日本音楽学会全国大会(11月6日、東京大学駒場キャンパス)では、ショパンの手紙に見られる、類似した子音を並べるような音声的な近接配置の特徴を指摘した後、音楽作品においてもショパンに特徴的な、拍節や和声とは関係なく特定の一音を近接配置させる傾向を指摘し、両者の共通性を示した。3月末に原稿を提出した『超域文化科学紀要』においても、同内容をさらに深く掘り下げたものとした。 これ以外にも、手紙における「類似したリズムフレーズの反復使用」と、音楽作品に見られる、構造を曖昧にする要因ともなっている「類似したモチーフの反復使用」にも、共通性が見られることから、翌年度以降も同路線でさらなる研究の展開を目指す。
|
Current Status of Research Progress |
Current Status of Research Progress
1: Research has progressed more than it was originally planned.
Reason
当初の計画では、楽理スキルのみを用いた作曲技法研究を想定していたが、ワルシャワへの留学で、芸術が決して単独ではなくあらゆるジャンルが本質的に共通することによって展開してきたという、その歴史や文化の状況を肌で感じることができた。その結果、言葉による創作プロセスをも視野に入れた、新しいタイプの体系的な楽曲分析方法について考えるという点で、当初以上の進展を見せている。
|
Strategy for Future Research Activity |
「9.研究実績の概要」においても記載したように、今後もショパンの文体と作曲技法の双方に「類型要素の近接配置」という特徴が存在するのではないかという仮説を、さらに深く掘り下げて調査、分析していくことで立証していく。そのため、翌年度は再びワルシャワに渡航し、現地でのフィールドワークを続行すること、また現地で音楽学と国文学について再び学び、未だ不十分な点を強化し両方の分析スキルをさらに磨くことを予定している。最終的には上記の仮説を立証することで、ショパンの作曲技法の体系的な分析方法を創出し、それに基づいたより説得力のある演奏論を展開することが目標である。
|