2010 Fiscal Year Annual Research Report
樹木木部柔細胞の耐寒性における可溶性糖の役割とその蓄積の制御機構の解明
Project/Area Number |
10J05901
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Research Institution | Iwate University |
Principal Investigator |
春日 純 岩手大学, 農学部, 特別研究員(PD)
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Keywords | 樹木 / 耐寒性 / 可溶性糖 / 水分通導 / 国際研究者交流 / フランス |
Research Abstract |
木部組織に存在する可溶性糖は、樹木の耐寒性獲得機構に対して、木部柔細胞の耐寒性向上への関与だけでなく、通水組織の凍結による塞栓症の発生・回復機構への関与が示唆されている。この塞栓症とは、通水組織内の水柱に気泡が発生・拡大し、組織が通水機能を失うことであり、長期に渡ると樹木個体の立ち枯れにもつながる。本研究では、樹木の耐寒性獲得機構における可溶性糖の役割を総合的に理解するため、木部組織の可溶性糖含量が異なる夏と冬に採取したクルミの枝を用いて、道管内における凍結による塞栓症の発生様式の季節間比較を試みた。 塞栓症の研究を行う上で、凍結過程においてリアルタイムで塞栓症の発生を検出することは難しい。既存の方法では、試料を冷却後、融解してから通水組織の機能評価を行うか、組織内の水分分布を確認することで塞栓症の発生を評価しているが、これらの方法では凍結融解過程のどの段階で塞栓症が発生するのかを知ることができない。そこで本研究では、通水組織内に気泡が生じ、水柱に働く張力が開放されることで生じる超音波アコースティックエミッション(UAE)シグナルを利用するUAE法により、塞栓症発生の検出を試みた。これまでの研究では、UAEシグナルが発生する状況や積算のシグナル数などをもとに単純な季節間比較を行ったが、明瞭な差は検出できていない。しかし、いくつかの興味深い現象が観察された。その中の一つは、UAEシグナルが冷却過程でのみ観察されたことである。この結果は、凍結による塞栓症発生機構についての最も有力な「水柱の凍結時に極小さな気泡が生じ、融解時に拡大する」という仮説と矛盾し、凍結による塞栓症が既存の仮説とは別の機構によって発生する可能性を示唆している。現在、専用のソフトフェアを用いて季節的なUAEシグナルの波形比較を行い、組織中の糖濃度が異なる試料間でのUAEシグナル発生様式の違いの検出を試みている。
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