2011 Fiscal Year Annual Research Report
樹木木部柔細胞の耐寒性における可溶性糖の役割とその蓄積の制御機構の解明
Project/Area Number |
10J05901
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Research Institution | Iwate University |
Principal Investigator |
春日 純 岩手大学, 農学部, 特別研究員(PD)
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Keywords | 樹木 / 耐寒性 / 可溶性糖 / 水分通導 / プロテオミクス / 国際研究者交流 / フランス |
Research Abstract |
本年度は、樹木の耐寒性獲得機構における可溶性糖の役割を総合的に理解するため、木部組織の糖含量が異なる夏と冬の枝における凍結による塞栓症の発生様式の比較と、脱馴化の過程で師部及び木部の柔細胞で起こる糖の代謝や輸送に関与する蛋白質の量的な変化の解析を進めた。 塞栓症の形成機構については、セイヨウグルミの採取枝から凍結過程で発生するアコースティック・エミッション(AE)を基に、塞栓症形成のリアルタイムでの検出を試みた。昨年度の研究で、融解後の枝の水分通導度の損失率(PLC)は凍結過程で発生する全AEシグナルの積算数と相関性を示さなかったが、本年度の研究により、10fJ以上の比較的高い絶対エネルギーを持つAEの積算数とは高い相関を示すことを明らかにした。このため、この高い絶対エネルギーを持つAEは、道管における塞栓症形成を表していると考えている。夏と冬の試料について、様々な凍結条件によるPLC変化とAEの発生様式を比べたところ、季節間でPLC変化には違いが見られなかったものの、10fJ以上の絶対エネルギーを持つAEの積算数は、冬には夏の5分の1以下であった。これまでのところ、これが組織内の糖濃度の上昇により塞栓症の形成機構が変化したことによるのか否かは明らかでない。今後、更なる検証が必要とされる。 糖の代謝・輸送関連蛋白質については、nanoLC-MS/MSを用いて脱馴化過程でセイヨウハコヤナギの木部及び師部組織の細胞膜蛋白質・可溶性蛋白質についてプロテオミクス解析を行い、関連蛋白質の量的変化を調べている。試料採取は2012年2月より行っており、同年5月まで継続する。これまでに2月の試料について細胞膜蛋白質の同定を試みたが、スクローストランスポータなど、糖の輸送に関与する蛋白質由来と思われるイオンピークが検出されており、今後の実験でこれらの季節変動が明らかになると思われる。
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Current Status of Research Progress |
Current Status of Research Progress
2: Research has progressed on the whole more than it was originally planned.
Reason
本年度の研究で、木部構造の複雑性からAEを基にした塞栓症形成の検出は難しいと思われた広葉樹において、絶対エネルギーを基にしたスクリーニングにより道管の塞栓症形成の検出を行うことができる可能性を示すことができた。AEを用いた塞栓症の検出は、塞栓症形成機構の研究において、今後、極めて有力なツールとなると予想される。また、脱馴化過程における糖代謝・輸送関連蛋白質の動的な変化を、当初予定していた遺伝子発現レベルではなくプロテオミクス解析を用いて蛋白質の蓄積レベルで評価するとしたことで、より直接的な評価ができることになったと共に、簡便により多くの蛋白質について同時に評価ができる可能性が開かれた。
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Strategy for Future Research Activity |
糖代謝・輸送関連蛋白質の動的変化について、転写レベルではなく翻訳レベルで評価するため、細胞膜及び、可溶性蛋白質についてのnanoLC-MS/MSを用いたプロテオミクス解析によりその蓄積量の変化を調べることにする。また、プロテオミクス解析の研究材料には、蛋白質関連のデータベースが充実しているセイヨウハコヤナギを用いる。プロテオミクス解析と並行して、細胞の耐寒性評価や組織内糖含量の測定と共に、低温走査電子顕微鏡を用いて木部組織内の水分分布変化を観察することによって、木部柔細胞の糖代謝や輸送が耐寒性に与える影響だけではなく、樹木の水分生理への関与についても検討することとする。これにより、樹木の耐寒性獲得機構における糖の役割について、総合的な考察を行えるものと考える。
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Research Products
(6 results)