2010 Fiscal Year Annual Research Report
主体とコミュニケーションをめぐる社会理論の再構成-精神分析の視点から
Project/Area Number |
10J05964
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Research Institution | Kyoto University |
Principal Investigator |
古川 直子 京都大学, 文学研究科, 特別研究員(DC2)
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Keywords | 精神分析 / 情動論 / 社会化 |
Research Abstract |
主体とコミュニケーションをめぐる社会理論としての精神分析の可能性を解明するという課題に向け、今年度はまず、S・フロイトの情動論を検討した。初期の草稿群と論文を主とした考察を通じて、精神分析における不安という情動の特異な位置づけと、それが間主観的コミュニケーションの参与の条件をめぐるフロイト独自の解釈を支えていることが明らかになった。 精神分析の情動論の構造を解明する際の重要な着眼点として、フロイトが提起した「現勢神経症」という臨床単位の存在がある。この神経症は、ヒステリーや強迫神経症といった精神分析の主要な対象としての「精神神経症」とは異なり、「抑圧」という心的機制をもたず、その症状が心的な意味をもたないという特徴によって規定される。現勢神経症という範疇にはこれまで十分な注意が払われてこなかったが、心的機制をもたないこの神経症の発見は、心に由来するのではない情動としての不安というフロイト独自の洞察を可能にしたという点で、精神分析の情動論の構成において重要な位置を占めている。 そして、この非-心因性の情動としての不安というフロイトの視点は、超自我や良心の成立をめぐる議論の参照点として、主体の構成とその社会化のプロセスをめぐる精神分析固有の解釈を支えているのである。この考察の成果によって、社会という集団の成立と主体の構成についての社会理論としての精神分析の独自性を把握するための足掛かりを得ることができた。
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