2011 Fiscal Year Annual Research Report
古代ローマにおけるメモリアの改変―ダムナティオ・メモリアエを中心に
Project/Area Number |
10J05976
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Research Institution | Waseda University |
Principal Investigator |
福山 佑子 早稲田大学, 文学研究科, 特別研究員(DC2)
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Keywords | ローマ史 / 碑文 / ローマ皇帝 / 元老院 / 記録 |
Research Abstract |
今年度の研究では、帝政初期の皇帝や元老院議員などに対するメモリア(記録/記憶)の改変がいかに行われたのかという課題を検討することから、ダムナティオ・メモリアエの具体的な様相と、その背景となった政治状況の解明を試みた。研究に際しては、断罪された皇帝や元老院議員に対する碑文史料からの氏名の削除・彫像の改変事例に関連する資料調査を実施するために、ドイツ考古学研究所、バイエルン州立図書館等での文献調査、ヴァチカン博物館等での碑文・彫像の調査を行った。また10月には、在ローマ・アメリカンアカデミーで開催されたシンポジウムMemoria Romanaにも参加した。これらの調査の結果、首都ローマの公的記録(暦表・活動記録など)においてすら、断罪された皇帝に関する氏名の削除やイメージの抹消は画一的に行われていたわけではなかったことが確認でき、従来の研究では特殊な事例として看過されてきていたにもかかわらず、類似例が複数存在することが明らかとなった。特に、ダムナティオ・メモリアエを発布する立場であった元老院議員の団体である、皇帝崇拝祭司団とアルウァル兄弟団の活動記録において、一方では断罪された皇帝の氏名がいかに削除され、もう一方では残されていたことは注目に値する。すなわち、断罪する立場の元老院議員のお膝元でも、処分の有無にはある程度の裁量が許されていたのである。そして、昨年度実施した、私的な領域におけるメモリアの改変についての研究と併せて、ローマ社会において氏名の削除のような記録の改変行為が広く行われており、その背景事情を検討することからは、人間関係や政治動向などのローマ社会の様相を明示することが可能なことが明らかとなった。また同時に、ローマ人にとって記録を残す/消すという行為に向きあうことは稀な事例ではなく、記憶/記録を巡る思索が身近なものであった姿が浮かび上がってきたのである。
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Current Status of Research Progress |
Current Status of Research Progress
1: Research has progressed more than it was originally planned.
Reason
当初の研究計画では、ダムナティオ・メモリアエの具体的な様相を明らかにすることまでを研究の目的としていたが、史料調査の結果とプロソポグラフィーを用いた研究を組み合わせることにより、断罪された皇帝や元老院議員を巡る人間関係や政治動向まで踏み込んだ検討を行うことができた。また、在ローマ・アメリカンアカデミーでローマのメモリアを巡る最新の研究動向を知ることができたのも有益であった。
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Strategy for Future Research Activity |
今後の研究では、検討対象を首都ローマだけではなくローマ帝国全域に広げ、碑文史料を中心とした調査を行うことで、皇帝・元老院・軍隊・属州総督・都市の関係を検討することを予定している。今年度の研究で、ダムナティオ・メモリアエが画一的なものではなく、個別の背景が反映されている事例を確認することが可能であることが明らかとなったことから、断罪された皇帝の消された記録/残された記録を1つの指標として、研究を進める予定である。その結果、従来のプロソポグラフィーを中心とした検討だけではなく、新たな視座から、帝位継承をめぐる政治動向の検討ができるのではないかと考えている。
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Research Products
(3 results)