Research Abstract |
平成22年度は,研究計画に即して調査・研究を遂行し,下記のような実績をあげることができた。まず,8月にバンクーバーにおいて開催された国際チベット学会(IATS)において研究発表を行ったことは重要である。本発表では,東チベットにおいて清朝・ダライラマ政権双方の支配を受けていたデルゲ王国(徳格土司)に着目し,(1)デルゲ王国をはじめとした東チベットにおける多くの在地の自律的政権が,清帝国(四川省)とダライラマ政権の関係の媒介項(人・モノの移動における)としての役割を担っていたこと,(2)こうした地域的特色を有していた東チベットが,19世紀末以降の清帝国の構造変動の中で,次第に清蔵間の緊張・対立の前線へと変化していったことを指摘した。近代東チベット史研究はとりわけ欧米の学界において近年盛んに研究がなされており,本学会に集まった当該分野の多くの専門家からも,本報告に対して貴重な意見・批評を頂くことができた。その後,この報告内容を再度詳細に検討し,『東洋文化研究』第13号に論説として発表した。 さらに,歴史科学評議会が日韓併合100周年に際して企画した特集「1910年前後の東アジア」(『歴史評論』725号)において,チベットの項目の執筆を担当した。この論説では,清朝とチベットの関係変化の実相を,従来の研究において注目されてきた理念的・思想的側面のみならず,両者の関係を媒介していた具体的な制度・機構,その運用面における特質に着目しつつ論じた。これは清朝史・中国近代史・チベット史の各領域に跨がる論点・課題を提示するものであり,隣接分野の研究者からも評価を受け,日本の若手研究者の研究業績を対外的に発信することを目的とした学術誌である『日本当代中国研究』第3号,2011年秋刊行予定(現代中国研究拠点プロジェクト:NIHU)に,中国語に翻訳の上,転載されることが内定している。
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