2011 Fiscal Year Annual Research Report
形態からイメージの科学へ―形態学を変異させるベンヤミンの三つの方法―
Project/Area Number |
10J06143
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Research Institution | Kyoto University |
Principal Investigator |
宇和川 雄 京都大学, 文学研究科, 特別研究員DC1
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Keywords | イメージ学 / 形態学 / ゲシュタルト理論 / ヴァルター・ベンヤミン / ルートヴィヒ・クラーゲス / フリードリヒ・グンドルフ / ゲーテ |
Research Abstract |
1)本年度はまず、形態学的なイメージ分析に基づくベンヤミンの歴史哲学について、1930年代の二つのイメージ論の衝突が生んだ、現代の「イメージ学(Bildwissenscahft)」の先駆という観点から考察をおこなった。主な論点は、先史時代の人間の生をアルカイックな「イメージの現実」ととらえたルートヴィヒ・クラーゲスの人間学と、写真イメージを歴史の証拠資料ととらえたウージェーヌ・アジェの写真論が、1930年頃のベンヤミンに与えた影響の分析である。この分析によって、ベンヤミンの歴史哲学が、イメージ経験の太古性と現在性を強調する同時代の対極的な議論のあいだで形成されてゆく過程が明らかになった。2)またこの研究と平行して、無声映画を「身振り」の発明ととらえたベラ・バラージュの『可視的人間』を手がかりに、マックス・コメレルとベンヤミンの「身振り」批評が位置している文化史的なコンテクストについての研究を進めた。バラージュ、コメレル、ベンヤミンの「身振り」への関心は、1920年代の「身振り言語論」の発達と密接に関わっている。この研究ではとくに「動物の身振り」をめぐる彼らの議論に焦点をあて、無声映画の時代における身体論と言語論の交差について分析をおこなった。3)これらの研究をまとめた後、本研究の最も重要なテーマである、ドイツ思想史における「ゲシュタルト(Gestalt)」概念の研究に着手した。「ゲシュタルト」という概念は、ゲーテの形態学以降、ゲシュタルト心理学からゲオルゲ・クライスの政体論、1930年代の文化論、人種論にいたるまで、ひとつの強力なディスコースを形成する。本研究では、ゲオルゲ・クライスの「ゲシュタルト」理論をこのディスコースの重要な転換点ととらえ、その理論を完成させたフリードリヒ・グンドルフと、それに対するベンヤミンに批判に焦点をあてた。本研究ではここからさらにベンヤミンによるゲーテ形態学の新しい解釈と実践を明らかにした。
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Current Status of Research Progress |
Current Status of Research Progress
1: Research has progressed more than it was originally planned.
Reason
本研究はヴァルター・ベンヤミンの形態学的なイメージ分析の方法を、19世紀から20世紀にかけての形態学の受容史との比較において、とくに「ゲシュタルト理論」から新しい「イメージ学」への移行として考察するものである。本年度は、フリードリヒ・グンドルフの『ゲーテ』(1916)におけるのゲシュタルト理論、およびルートヴィヒ・クラーゲスの『宇宙生成的エロス』(1922)におけるイメージ論など、一次資料の分析に取り組むなかで、この研究の枠を、ゲオルゲ・クライスの精神運動、身体論、19世紀のドイツ文学史などに多角的に拡げることができた。またそれにより、ベンヤミンの思想の学際的な広がりを具体的に明らかにすることができた。
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Strategy for Future Research Activity |
今後の研究ではまず、以下の二つの研究をまとめる。一つ目はベンヤミンのグンドルフ批判における「ゲシュタルト理論」の転換についての研究であり、もう一つはベンヤミンの歴史哲学と、グリム以降のドイツ文献学の発展とのひそかな連続性を主題にした研究である。後者の研究では、はじめグリム兄弟に対して使われた「些末なものへの畏敬心(Andackt zum Unbedeutenden)」という言葉が、その後ドイツ文献学をどのように生起させ、発展させ、そしてそれが1930年頃どのようにベンヤミンの歴史哲学のモットーへと変化したのか、その痕跡をたどる。これはヴァールブルクとも比較されるベンヤミンの「歴史形態学」を論じるうえでの中心主題となる。
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