2012 Fiscal Year Annual Research Report
形態からイメージの科学へ―形態学を変異させるベンヤミンの三つの方法―
Project/Area Number |
10J06143
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Research Institution | Kyoto University |
Principal Investigator |
宇和川 雄 京都大学, 文学研究科, 特別研究員(DC1)
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Keywords | ヴァルター・ベンヤミン / グリム兄弟 / 文献学 / 歴史 / ゲーテ / 第二の自然 / 普遍史 / フリードリヒ・シュレーゲル |
Research Abstract |
1)本年度はまず、グリムからベンヤミンまでのドイツ文献学の発展史について分析をおこなった。この研究では、「些末なものへの畏敬心」というグリム批判の言葉が、その後のドイツ文献学のなかでベンヤミンにいたるまでどのように解釈をかえて受け継がれていったのかを追跡し、19世紀以降のドイツにおける「文献学」と「歴史学」の相互形成のプロセスを明らかにした。2)この研究の後には、ドイツ思想史における「第二の自然」の概念分析に着手した。人間は生来の自然とは別の「第二の自然」を作りだすという考えはそもそもは古代ギリシャにまでさかのぼるものだが、この「第二の自然」をめぐる議論は18世紀末以降、ドイツで急速な高まりをみせる。ノヴァーリスとゲーテは人間が芸術を通して「第二の自然」を構成するプロセスを論じ、へ一ゲルは人間が法体系や倫理を「第二の自然」としてつくりだしてゆくプロセスを論じ、さらに20世紀に入るとルカーチとアドルノが構築された「第二の自然」の不活性について批判的な考察をおこなっている。この研究では、この議論の痕跡が織り'込まれたベンヤミンのテクストを手がかりに、19世紀ドイツにおける自然研究から歴史研究への漸進的な変化を明らかにした。3)この研究の後には、ベンやミンにおける「普遍史の理念」の分析をおこなった。「普遍史」とは、そもそもは聖書の記述に基づいて書かれた人類史を指すものであり、その起源は古代ローマまでさかのぼる。このキリスト教的な「普遍史」が科学的な「世界史」へと変貌してゆく転換点は、ドイツでは18世紀後半に起こっている。ベンヤミンはこの19世紀以降の世界史記述をくりかえし批判しながら、その一方では、いまでは失われた「普遍史の理念」の再生を主張している。この研究では、ベンヤミンの「普遍史の理念」について、とくにフリードリヒ・シュレーゲルとの関係に焦点をあてて分析をおこなった。
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