Research Abstract |
本研究の最終目的は,物体の認識・識別を行っているとされる下側頭葉皮質において,どのように情報を表現しているのか,また,それを実現するのに必要な神経回路構造は何なのかを解明することである.平成22年度はこの研究目的の下,大別して二つの研究を行った.一つは,サルの下側頭葉皮質から計測されたスパイクデータの解析である.下側頭葉皮質には,顔や動物,幾何学図形など,複雑な形の視覚刺激を提示した時に,スパイクと呼ばれる電気パルスを発して強く活動する神経細胞が存在することが知られている.本研究では,このような特性を持つ神経細胞が皮質上にどのように分布しているのかを,統計的手法(変分混合ガウス分布)を用いて解析した.これにより,顔の画像を提示した時に強く活動する神経細胞が集まった「顔ドメイン」や,動物の画像を提示した時に強く活動する神経細胞が集まった「動物ドメイン」などが存在することを確認した.もう一つは,神経細胞の活動を計測したデータから,その神経細胞の電気的な応答特性を推定する手法の確立である.近年,樹状突起においてこれまで考えられてきた以上に多彩な情報処理が行われているとして注目を集めている.樹状突起における情報処理を理解する際には,樹状突起の電気的な応答特性,特に樹状突起上の膜抵抗分布を知る必要がある.そこで本研究では,膜電位の観測値から膜抵抗分布を推定する手法を構築した.提案手法は,ラインプロセスを用いることで,膜抵抗値が急峻に変化する場合などを含む任意の分布形に適応可能となっており,汎用性の高い手法である.提案手法を用いることで,樹状突起における情報処理の解明が進むと期待される.
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