2011 Fiscal Year Annual Research Report
胎盤構築過程におけるウシ内在性レトロウイルスの貢献
Project/Area Number |
10J06411
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Research Institution | Kyoto University |
Principal Investigator |
仲屋 友喜 京都大学, ウイルス研究所, 特別研究員(PD)
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Keywords | ウシ / 胎盤 / 内在性レトロウイルス / エンベロープ / 細胞融合 / 栄養膜二核細胞 / 子宮内膜 / 組織特異的 |
Research Abstract |
本研究の目的は、ウシ胎盤で機能する内在性レトロウイルスを同定することである。昨年度までに、代表者らが同定したウシ内在性レトロウイルスK1(BERV-K1)のエンベロープ(Env)が胎盤の栄養膜二核細胞で特異的に発現していること、ならびにBERV-K1 Envがin vitroの解析で、ウシ子宮内膜細胞に対して高い細胞融合活性を示すことを明らかとした。このことから、BERV-K1 Envはウシの胎盤に特徴的な組織像である三核細胞の形成に中心的な役割を担っていると考えられた。 本年度の計画は、ウシ子宮内膜細胞上で発現しているBERV-K1 Envの受容体を同定することとしたが、まだ特定には至っていない。しかしながら、BERV-K1 Envがウシ子宮内膜細胞に結合することが確認できたことから、当該組織の細胞がBERV-K1 Envの受容体を発現していることが強く示唆された。 さらに詳細な解析を行った結果、BERV-K1はウシFAT2遺伝子のイントロン18に挿入されていることが明らかとなった。そこで、様々な動物のFAT2遺伝子におけるBERV-K1の有無をゲノムPCRによって解析したところ、ウシ科の中でもバリ牛、スイギュウ、シタツンガなどウシ亜科に属する動物のみがBERV-K1を有していることが明らかとなった。また、これらのBERV-K1は家畜ウシと同様にEnvのみが保存され、それらは高い細胞融合活性を示したことから、BERV-K1 Envはウシ亜科動物の進化の過程で積極的に保存され、これらの胎盤の発達に大きく寄与してきたものと考えられる。 ウシFAT2遺伝子に関する解析を行ったところ、BERV-K1と同様に胎盤で特異的に発現していたことから、BERV-K1はFAT2遺伝子の発現機構を利用することで胎盤特異的に発現するようになったことが示唆された。 代表者は、以上の研究成果を「The 2nd World Congress on Reproductive Biology」で発表し、「Centre for Reproductive Genomics Poster Award 2011」を受賞した。
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Current Status of Research Progress |
Current Status of Research Progress
2: Research has progressed on the whole more than it was originally planned.
Reason
本年度当初に予定していたBERV-K1 Env受容体の同定に関しては、実験系の確立が遅れているため進展に乏しいが、BERV-K1 Envがウシ子宮内膜細胞に対して有意に結合能を示したことから、BERV-K1 Envがウシ子宮内膜細胞表面に発現する受容体と結合し、細胞融合を引き起こすことで三核細胞を形成することが示唆された。また、ウシにおけるBERV-K1のin vivoノックダウン実験は、実験施設の確保ができず滞っている。しかしながら、BERV-K1はスイギュウやシタツンガなど他のウシ亜科に属する近縁種にも同様に挿入されていること、さらにはそれらのEnvが細胞融合活性を有していたことなどを鑑みるに、BERV-K1は進化の過程で積極的に保存され、胎盤形成という生理機能の発展に大いに貢献してきたことが強く示唆された。以上のことから、本研究の目的の達成度はおおむね順調に進展していると考えられる。
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Strategy for Future Research Activity |
現在のところBERV-K1 Envの予想される機能としては、その高い細胞融合活性を利用した三核細胞の形成であるが、in vivoにおける機能は証明されていない。そこで、目的タンパクの翻訳を阻害するモルフォリノアンチセンスオリゴによってBERV-K1 Envの機能を抑制し、着床期やその後の胎盤形成に与える影響を調べる。さらに、BERV-K1が胎盤で特異的に発現する機構の詳細を明らかにするために、BERV-K1のプロモーター解析やエピジェネティック修飾による転写制御などを中心に解析を進めていく。
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