2011 Fiscal Year Annual Research Report
農業水域に生息する魚類個体群の保全遺伝生態学的研究
Project/Area Number |
10J06719
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Research Institution | National Agriculture and Food Research Organization |
Principal Investigator |
西田 一也 独立行政法人農業・食品産業技術総合研究機構, 農村工学研究所・資源循環工学研究領域, 特別研究員(PD)
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Keywords | 農業水域 / 淡水魚 / 個体群 / 遺伝的構造 / 遺伝的多様性 / 在来・非在来 |
Research Abstract |
今年度は,湧水を水源とする水田水域に生息するホトケドジョウと,主に本州の水田水域に広く分布するタモロコの2魚種について,前者では流域スケール,後者では全国スケールにおけるミトコンドリアDNA解析を行った. 多摩川流域におけるホトケドジョウのミトコンドリアDNA解析を行った結果,当該流域の本種は流域固有のハプロタイプ(配列の種類)を有していたと推察された.ただし,一部の個体群において他流域のハプロタイプを有する個体が確認されたことから,過去の河川争奪等に伴って本種が他流域から多摩川流域に移住したことが示唆された.谷津における個体群を含む個体群間の遺伝的分化指数(F_<st>)は高い値を示す場合が,また,谷津における個体群のハプロタイプ多様度(h)は低い値を示す場合が認められた.一方,支流・ワンドにおける個体群間のF_<st>は,谷津個体群を含む場合に比べて高い値を示すことはなく,流路距離との間で正の相関関係を示し,また,hは高い値を示した.谷津における個体群では,谷津小河川の改修によって,小集団化や遺伝子流動の阻害が起きていると考えられた.一方,支流・ワンドにおける個体群はメタ個体群構造をなしており,遺伝子流動によって遺伝的多様性が保たれていたと考えられた.タモロコについては,国内の分布域における遺伝的構造を把握することにより,関東地方における本種の在来・非在来の予備的検討を行った.シークエンシングによって得られたミトコンドリアDNAの塩基配列から16のハプロタイプが検出され,それをもとに作成した系統樹は,琵琶湖および伊勢湾に流入する河川(クレードBとする)とそれ以外(クレードAとする)の2つのクレードに分かれた.クレードAにおいて,東海から関東地方にかけてのハプロタイプが明確なサブクレードを形成しなかったことから,これらの地域では本種が非在来であることを示唆している可能性が考えられた.
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Current Status of Research Progress |
Current Status of Research Progress
2: Research has progressed on the whole more than it was originally planned.
Reason
昨年度に引き続き,分析対象種のサンプリングを計画的に実施し,各サンプルのミトコンドリアDNA遺伝子のハプロタイプ,全国あるいは流域スケールでの遺伝的構造を明らかにすることができた.これらの成果は,農業水域に生息する主要な魚種について,地域的な保全遺伝管理,系統地理的な進化過程の解明に貢献するものとして評価できる.
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Strategy for Future Research Activity |
DNA解析を予定していた魚種について,ミトコンドリアDNAの解析を進めることができたが,ミトコンドリアDNAよりも遺伝的差異の検出に優れるマイクロサテライトDNAの解析には至らなかった.このことは次年度に実施して行く予定である.また,サンプリング地点・検体数が十分でない魚種については,これらを増やしたうえで,個体群構造や在来・非在来の判別を行っていく予定である. 以上のことによって,農業水域に生息する魚類の遺伝的構造・多様性の実態を総合的に把握し,遺伝的多様性の保全や非在来個体の拡散の防止に有用な知見の蓄積を進めていく.
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Research Products
(4 results)