Research Abstract |
脳卒中患者等において,運動機能が保たれていても感覚が重度に障害されている場合,つまみ動作などのマニピュレーション能力が著しく低下する場合がある.そこで,指先の圧情報を皮膚表面への電気刺激に変換してフィードバックする方法を開発し,臨床実用性について予備的検討を行った. 症例は,右視床出血後27ヶ月の66歳女性であり,左上肢,手指は分離運動も可能で運動機能は良好にも関わらず肘以下の表在・深部覚が脱失しており,介入開始前,簡易上肢機能検査にて7/100点とマニピュレーション能力が低かった.対象タスクは円柱握りおよび指腹つまみとし,提案システムを用いて円柱握りのトレーニングを1日1時間,2ヵ月間で29日間行い,その後,1日1時間,1週間で4日間指腹つまみのトレーニングを行なった.円柱握りでは母指の指腹に,指腹つまみにでは母指と示指の指腹に圧力センサを貼付した.電気刺激は,円柱握りでは非麻痺側の僧帽筋,指腹つまみでは非麻痺側,麻痺側の僧帽筋に母指・示指のセンサの情報を別々にフィードバックした.円柱握りにおいては,指先の圧力の不安定性はトレーニングが進むにつれ減少し,2ヵ月間の長期介入後,患者はシステムなしでも安定した指先圧力を保持できるようになった,指腹つまみのトレーニング前,握り動作中の麻痺側の指先圧力パターンは非麻痺側と全く異なっていたが,提案システムにより指先圧力をフィードバックした途端,非麻痺側の圧力パターンと同様となり,即時的改善が認められた.また,指腹つまみのトレーニング時,患者のマニピュレーション能力をBox and Block Testにより評価した.その結果,スコアは上昇し,訓練後システムを外した場合でも同日内の練習前と比較して高いスコアを維持していた,さらに,介入終了後7ヵ月においても,介入期間終了時のスコアを維持しており,キャリーオーバーが確認され,提案システムの有効性が示唆された.
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Current Status of Research Progress |
Current Status of Research Progress
2: Research has progressed on the whole more than it was originally planned.
Reason
現在までに,脳卒中片麻痺患者の運動機能回復を目的とした感覚フィードバック装置を開発し,症例1名に対して装置の有効性を検証する実験を終了している.現在,装置開発とその有効性の検証実験の結果を論文としてまとめており,24年度内に投稿する予定である.以上のことから,おおむね順調に進展していると考える.
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Strategy for Future Research Activity |
現在までの装置開発と脳卒中片麻痺患者による装置の有効性の検証実験の結果を論文としてまとめることを第一の目的とする.今後は,被験者数を増加し装置の有効性の検証を行うと共に,研究室外での使用を目的とした装置の小型化を実施する予定である.さらに,fMRIなどを用いて,感覚フィードバックにより運動を再獲得する過程でどのような現象が脳内で生じているかなど,基礎的な解析も実施したいと考えている. また,リハビリテーションによる機能回復機序を明らかにする一端として,人の運動制御といった基礎的研究にも重点を置き,運動の個人差と神経基盤との関係などの検証を行う予定である。
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