Research Abstract |
平成24年度に行った研究は,(1)重度の感覚麻痺を有する脳卒中片麻痺患者の手指機能の向上を目的とした表面電気刺激を用いた感覚フィードバック装置(Sensory feedback by transcutaneous electrical nerve stimulation, SENSと略記)の有効性の検証,(2)運動中の筋力分配に関する評価関数と神経構造パラメータとの相関を検証に大別される.(1)では,これまでに開発したSENSの有効性を臨床現場において検証し,その結果を論文としてまとめ,Journal of Neuro Engineering and Rehabilitationに投稿した.一方,(2)は運動制御に関する基礎的な研究である.脳は目的の運動を実行するために,無数に存在する運動軌道計画の中から最も適切なものを選択し,その軌道を生成するのに必要な関節トルクを出力する.さらに,目標となる関節トルクを生成するために,無数に存在する筋力の組み合わせの中から最も適切な一つの組み合わせを選択する.このように,運動制御に関する脳の計算理論の重要な問題は,生体運動制御系に含まれる冗長性を解決することである.脳卒中など運動疾患により運動機能が低下し,その後の回復過程において,どのように筋の使い方が変化していくのか,また神経基盤と筋力分配との関係は健常者と異なるか等検証するため,まず健常被験者において筋力分配問題に関わる計算理論とその脳内実現について明らかにすることを試みた.30名で等尺性筋収縮タスクとMRI撮像を行い,筋力分配を表す指標(筋のtuning functionの面積)と神経構造パラメータとの相関をVoxel-Based Morophometryを用いて解析した結果,右Premotorの灰白質の体積と指標との間に正の相関が見られた.これは,筋力の総和や二乗和といった筋の消費エネルギーを考慮した指標によって被検者間の脳構造のばらつきを説明可能であることを示しており,消費エネルギーを考慮した筋力分配に関する評価関数が脳構造に影響を与えている可能性を示唆していると考えられる.
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