2011 Fiscal Year Annual Research Report
ラマン分光法の岩石学への応用 : 地殻物質の沈み込み―上昇機構の解明
Project/Area Number |
10J07116
|
Research Institution | Nagoya University |
Principal Investigator |
纐纈 佑衣 名古屋大学, 環境学研究科, 特別研究員(DC1)
|
Keywords | ラマン分光分析 / 石英ラマン圧力計 / 炭質物ラマン温度計 / 三波川帯 |
Research Abstract |
昨年度に引き続き愛媛大学の川嵜智佑教授の研究室を訪問し,石英ラマン圧力計の補正に向けた高圧焼きなまし実験を行った.実験条件は1.5GPa/800℃と2.5GPa/600℃で行った.同条件の下で実験時間を変えてデータを比較したところ,反応速度に関する重要な結果が得られた.天然のデータも合わせて,変成圧力と残留圧力の関係式を導出したところ,指数関数で近似できることが示された.この成果は国際学会と国内学会で発表し,分光法を用いた新しい圧力計として評価された,両発表において最優秀ポスター賞を受賞した.また,負の残留圧力を保持する石英包有物を高温変成岩から見出した.この試料は,ラマン分光分析と原子間力顕微鏡を用いて詳細に分析した.さらに,研究対象地域である四国中央部別子地域のエクロジャイトユニットの広がりを特定するため,同地域で採取した変泥質岩の薄片を作成し,石英ラマン圧力計を用いて残留圧力を測定した.その結果,今まで広がりの分からなかった東南部において,エクロジャイトユニット境界と思われる領域がある事が確認された. 低温領域に適応可能な炭質物ラマン温度計の開発も同時に遂行した.昨年度まで分析してきた炭質物のラマンスペクトルを解析し,半値幅の値を用いた150℃から400℃の温度範囲で適応可能な温度計を完成させた.また先行研究と比較して本研究で開発した温度計の精度が高いことを示した.半値幅の値は測定時に十分なスペクトル強度が得られていれば,測定条件に依存しない事を確認しており,汎用性の高い温度計と言える.さらに,炭質物は低温から高温にかけてアモルファスから石墨へと徐々に変化することがラマンスペクトルから明らかになった.この成果は国内学会で口頭発表した.なおこの研究成果をまとめた論文は,現在Contributions to Mineralogy and Petrologyに投稿中である.
|
Current Status of Research Progress |
Current Status of Research Progress
2: Research has progressed on the whole more than it was originally planned.
Reason
炭質物温度計の開発は当初の計画通り,これまでに蓄積したデータを整理して論文としてまとめ上げる事ができた.論文は現在査読中であるが,論文が公表されれば,低温領域における新しい温度計として多くの分野で使われることが期待される.石英ラマン圧力計較正のための実験も引き続いて行っており,残留圧力と変成圧力の関係を導き出した.この成果は学会で発表し,ポスター賞を受賞するなどして,高い評価を得た.
|
Strategy for Future Research Activity |
本研究において炭質物を用いた低温領域に適用可能な地質温度計の開発はすでに論文を投稿しており,後は論文の査読結果を待つだけとなっている.査読者からのコメントに対して必要に応じて追加データを取り,この研究を完成させる.石英ラマン圧力計の補正は,あと2,3回程度実験をしてデータを増やし完成させる予定である,ただし,当初は温度依存性のない圧力計であると考えていたが,同程度の圧力で温度の異なる試料から優位に異なる残留圧力値が検出されたことから,今後は温度の効果も含めて検討する必要がある.また,研究地域である四国中央部別子地域において補正した石英ラマン圧力計を適用し,エクロジャイトユニットの広がりを決定する.
|