2010 Fiscal Year Annual Research Report
1920―40年代の検閲とメディアに関わる作家の総合的研究―永井荷風を視座として
Project/Area Number |
10J07174
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Research Institution | Waseda University |
Principal Investigator |
岸川 俊太郎 早稲田大学, 教育学研究科, 特別研究員(DC2)
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Keywords | 日本近代文学 / 永井荷風 / 日仏交流 / 検閲 / メディア |
Research Abstract |
本研究は、永井荷風の文学的営為を検閲とメディアをめぐる同時代の社会・文化・政治的環境の分析を通して、荷風が同時代に通底する表現機制に対して試みた文学的実践の内実を解明し、この作家の全体像を刷新することを目指すものである。本年度は、大正期に発行されていた日仏交流雑誌『極東時報』に着目し、同誌の主筆だった仏人アルベール・メーボンと荷風の関係について、日仏両方の同時代資料に基づきつつ更なる調査を行った。その研究成果の一部は、現在刊行中の第二次『荷風全集』(岩波書店、2009年4月~)の「月報21」(「荷風とメーボン」)として結実し、荷風文学の重要な転換点とされる大正期における荷風の文化・文学受容の一端を明らかにすることができた。また、これによって、フランス外務省の後援を受けて来日したメーボンの政治的任務や活動の実態、『極東時報』の果たしたメディアとしての役割など、究明の余地が残されている諸課題を解明すべく次年度に行う予定のフランスにおけるフィールドワークの基礎研究を遂行することができた。今後は、外交資料館やフランス国立図書館等をはじめとする研究調査を通じて、実際に荷風と交流のあったメーボンの活動や、フランスでの『極東時報』の流通の実態などを解明し、その上で大正期における出版・雑誌メディアの受容と日仏文化の交差という開かれた文化・社会的状況から荷風の文学環境を捉え直していく予定である。 本年度はまた、出版メディアと検閲に関わる関連文献の収集・精査する作業を進めた。あわせて、池田文庫等の荷風関係の文学的資料に関する国内での研究資料調査も行った、これらの調査結果を踏まえ、荷風の文学的転換点と言い得る『雨瀟瀟』について考察し、その文学的営為の全体像を究明する作業は着実に進んでおり、その研究成果の一部は現在学会誌に投稿準備中である。
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